タイガースの「重心」岩崎が仲間に示した矜持とは

タイガースの「重心」岩崎が仲間に示した矜持とは

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クローザーは言うまでもなく強烈なメンタルタフネスを必要とするポジションです。昨季、最後まで殿を守り抜いた岩崎投手にとって、マウンドに立つ心構えは、どのようなものだったのでしょうか。仲間にどんな姿を見せようと努力してきたのでしょうか。

阪神の守護神・岩崎優が明かす日本シリーズ「大逆転劇のブルペンで起きていたこと」32歳が貫く“鉄仮面”の流儀「スイッチが5段階あるなら…」

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昨年38年ぶりの日本一をつかんだ阪神タイガース。その胴上げ投手になったのが32歳のサウスポー、岩崎優投手だ。さまざまな思いを秘めてのぞんだ日本シリーズの秘話、クローザーとして仲間に示した矜持とは――。

 

「クローザーは臆病なくらいがちょうどええんよ」

 昨季、阪神を日本一に導いた岡田彰布監督の持論である。もしも、岩崎優が自信家だったら、昨年のタイガースの歩みは違うものになっていたかもしれない。マウンドで表情を出さない「鉄仮面」は、彼が並みいる猛者と渡り合うための術である。

一つだけ聞いた質問

 岩崎の生き方が滲んだ試合がある。昨秋、オリックスとの日本シリーズは2勝2敗で第5戦を迎えていた。2点劣勢の8回裏に逆転し、岩崎が9回のマウンドへ。3者凡退で日本一に王手をかけた。甲子園のクラブハウスに向かう勝者たちは声をはずませ、遠くからはハイタッチを交わす雄叫びも聞こえてくる。最高潮のムードである。

こんな時、記者に囲まれた選手は、いつになく饒舌になる。だからこそ、ニコリともせず、俯きながら問いかけに応じる岩崎が異質に映った。ひとつだけ、彼に聞いた。

「8回裏の攻撃をブルペンのモニターで見ていたと思うが、気持ちは高ぶったか」

 すると、間髪入れずに言う。

「一緒ですよ、自分は。感情はあんまり、そこで動かさないようにしているので」

岩崎のプロフェッショナリズム

 立ち止まって話す囲み取材はわずか46秒。雄弁とは程遠く、「塩対応」のイメージも定着したが、ともすれば聞き流してしまいそうな、この短いひとことはブルペンに生きてきた男のプロフェッショナリズムを濃厚に発していた。

あれから3カ月。あの言葉に潜むものを知りたくて、キャンプ地の沖縄・宜野座に飛んだ。岩崎は2月のキャンプインを二軍で迎え、中旬から一軍に合流したばかり。日焼けした顔つきが順調さを物語っており、そのままチームに安心感を与えている。ベテランの域に入った32歳のサウスポーは涼しげな佇まいのままに、3カ月前の発言の意図を振り返った。

第5戦が持つ意味

「ドッシリといいますか。他の選手が自分の立ち居振る舞いを見ていると思うんです。もちろん喜ぶ時もあるんですけど、自分がマウンドに行く時には(感情を)出さないように。点差が何点であろうが、自分のやることは一緒。そういうのを周りに見てもらって伝えたい。もちろん、点差がある方が楽です。でも、そこにあまり左右されずに、パフォーマンスを出したいんです」

日本シリーズ第5戦が持つ意味は、誰もが分かっていた。勝てば頂点は目前。京セラドーム大阪で行われる第6戦以降の2試合のうち、1つ勝てばいい。この試合を制すれば、圧倒的に優位に立てるのである。

大逆転劇の裏でブルペンは…

第5戦の8回裏。敵失も絡んで好機を築くと、ブルペンで待機する投手たちも固唾をのんでモニターを見守る。近本光司の右前打で1点差に迫り、森下翔太の左中間を破る2点タイムリー三塁打で逆転した。黄色いスタンドが揺れに揺れていた。

 ブルペンは一塁アルプス席の真下にある。救援陣もまた、場内の大歓声がこだまする中、感情を爆発させた。仲間たちの様子を岩崎はまるで他人事のように振り返る。

「『ワー』って、ブルペンでも盛り上がっているんですよ。自分はうんうんって。それくらいの感じでした」

欠かさず行う作業

 8回裏に点差が動かなければ勝ち試合を締める岩崎の出番は9回にはやってこない。だが、先頭の木浪聖也が出塁すると、守護神は肩慣らしを始めた。

阪神の攻撃はなかなか終わらない。岩崎はブルペンで投げては、椅子に座って戦況を見つめた。味方が逆転した瞬間も感情を高ぶらせることなく、静かに頷くだけ。ふつふつと湧き上がる闘志を制御していた。

彼は出番を待つ間、いつも欠かさず行う作業がある。相手チームのベンチ入りメンバーの整理である。途中出場した選手をオーダーに当てはめていく。

心身を整える時間

 オリックスの9回表の攻撃は9番の投手・阿部翔太から始まる打順で、当然、代打の場面である。その後、1番の廣岡大志、宗佑磨へと続いていく。ベンチに残るのはレアンドロ・セデーニョ、大城滉二……。岩崎は展開を先読みしていた。

「代打に大城選手が来ることは、ある程度は頭にありました。いつも、残りのベンチのメンバーを見て、誰と当たるかなと考えています。オリックスはなかなか読めないところもありましたけど、普段やっているセ・リーグのチームなら分かります」

 出番が来るまでは、心身を整える時間である。ブルペンの岩崎は8回表から体を動かし始める。8回裏に投球を開始し、13球ほどで仕上げてマウンドに向かう。これが日常である。この日も9回を見据えて投げた。対戦する打者を打ち取るイメージを膨らませていた。大一番でも、普段と同じように考えを巡らせていた。

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