6月17日、甲子園球場に集まったファンの視線を一身に集めたのは、阪神タイガースの才木浩人投手だった。昨年からの好調を維持し、今季も防御率トップクラスを誇る右腕がロッテ相手に先発。序盤からテンポよく投げ込み、まさにエース然とした快投を披露した──しかし、勝利目前とされたその先に、不可抗力の悲劇が待っていた。
試合は阪神が3回裏に先制に成功。中野拓夢のタイムリーヒットで1対0と最小得点ながらリードを奪うと、場内は静かに盛り上がりを見せた。ロッテ打線を完全に封じ込めていた才木はこの時、己が“大黒柱”としての責任を果たしつつあった。1回から5回にかけて被安打わずか1。特に6回には2死三塁のピンチを迎えながらも156キロ直球で古巣・山本を空振り三振に仕留め、連続無失点イニングを自己最長タイの35回1/3に伸ばしてみせた。その雄たけびとも言える力強いガッツポーズは、まさに虎のエースの証だった。
──だが、勝負の7回、その姿は歯車が狂いはじめる。先頭から安田、藤岡の連打で1死二、三塁の崖っぷち。犠打でボールが転がり、場内がざわめく中、打球は才木の右手甲を直撃。だが、その直後に見せた判断力と身体能力はさすがの一言。素早くボールを処理し、三塁走者をアウトにしてピンチ脱出。しかしこのプレーでベンチに戻った才木は、自ら「投げ切りたい」と申し出る。右手の痛みも影響なしか、自ら決断しマウンドへ──その強い責任感に、球場に再びどよめきと拍手が巻き起こった。
だが、野球の神は非情だった。その後2死二、三塁で迎えた代打・角中に、再び投手強襲の内野安打を浴びて同点。さらに続く藤原恭大には、やや甘く入った直球を左前に弾き返され、あっという間に逆転を許す展開に。この一連の攻撃で一気に3失点し、才木の快投が瞬時に悪夢に変わってしまった。
試合直後、才木は「先制点を取ってもらった後、守り切れなかったので申し訳ない」と言葉少なに語った。だが、試合中のやり取りには、藤川監督も驚きの表情で彼の意志の強さを振り返る。「本人が続けたいと言ったので。責任感の中で」 とコメントし、才木の“漢気”を高く評価した。
もちろん、チームにとってはこの敗戦の痛手は計り知れない。甲子園に戻っても白星に見放され、交流戦は7連敗という屈辱。なんとも後味の悪い結果となってしまった。そして、才木の連続無失点記録も35回1/3でストップ。球団公式の記録から自己最長に並ぶ数字だったが、ここで途絶えてしまったのだ。
今季阪神の中軸として期待され、交流戦でもロッテに対して2年連続完封勝利を挙げていた才木──しかし“相性”だけではどうにもならないのがプロの世界だ。6回までの完璧な投球でスタンドを温め、場内を虎色に染めていた彼の姿は、まさにチームの希望そのものだった。だが、7回の“悪夢”でその期待は一気に裏切られた。打球が右手を直撃しながらも続投したその姿勢は、記憶に残るものとなるだろう。
それでも、試合後の才木は右手への心配はまったくないと言い切った。「全然問題ない。折れているとかではないので大丈夫です」と、その表情には次回登板へ向けた強い決意がにじんでいた。この“右腕”が再びマウンドに立つとき、阪神は再び息を吹き返す兆しを見せるのではないか──そんな期待を抱かせる一幕だった。
取材を終え、甲子園を後にする才木の背中が不思議と力強く見えた。勝敗は付かなかったが、彼が捨て身で投げ続けたその7回は、決して無駄にならないはずだ。次回登板、そして秋以降のリーグ戦で、彼が再び虎の闘志を体現することを願いたい──。才能と覚悟を併せ持つ才木浩人の今後に、改めて注目したい戦いだった。
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