京セラドーム大阪の空気は、初回に一気に傾いた。阪神は先発の伊原陵人がいきなり先頭から3連打を浴びて先制を許すと、なお1死二、三塁でボスラーの遊撃への適時内野安打が加点となり、試合の趨勢は早々に決まった。スコアは1-2。反撃は3回の1点止まりで、好機を幾度も作りながら同点の一打が出なかった。観衆36189人、所要3時間18分の接戦は、首位を走る阪神にとってほろ苦い黒星となった。
立ち上がりの伊原のピッチングに対して、高めに入った直球と甘く入った変化球を中日上位打線は逃さなかった。ブライト、田中、岡林の3連打であっという間に0-1。続く1死二、三塁でボスラーの足を生かした内野安打で0-2。だが、ここからがドラ1左腕の真骨頂だった。2回以降は配球を立て直し、カーブとカットで緩急を織り交ぜ、ゴロを量産。結局6回7安打2失点、自己最多の111球で試合を壊さずにマウンドを託した。「2回以降はリズムが出た」と本人が振り返る粘投で、連敗の歯止め役も務めたが白星には届かず今季6敗目。復調の予感と課題を同時に残す登板だった。
攻撃陣は立ち上がり、中日の大野雄大の老獪さに封じられた。初回は淡泊に3者凡退。ようやく3回、下位の熊谷が8球粘って左前打で火口を作ると、送りバントとタッチアップで2死三塁。ここで中野が外角寄りの直球をきっちり叩いて左前適時打。チームバッティングで1点を返したが、なお続いた好機であと1本が出なかったことが痛かった。
4回は熊谷が再び左前打で出塁し、攻撃の糸口を示したものの、上位が大野の出し入れに泳がされて無得点。6回までに許した失点は初回の2点のみという展開だけに、ベンチにも「最少失点で追いつけるはず」という空気は確かにあった。だが大野は緩急の幅を広げ、要所でボールを見極めにくい高さへ投げ切る。6回1失点で7勝目の投球は、数字以上に阪神の的を絞らせない内容だった。継いだ梅野、清水、そして復帰後安定感を増す松山の系統もほぼ完璧。タイガース打線に付け入るスキを与えず、最後の1人まで“届きそうで届かない”距離を保ち続けた。
それでも阪神は諦めなかった。7回2死から、前日スタメンを外れてリフレッシュした近本が中前へ復帰の“H”を灯す。ここを起点に打線を再加速させたいところだったが、後続が続かない。近本は「点に絡めば良かった」と唇を噛む。個の安打は出るが、塁上を動かす圧とファウルで粘る執念が、今季何度も見せてきた打線が“線”になり得点するというシーンは生まれなかった。
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最終盤の9回は見せ場だった。先頭・代打の豊田が155キロの初球をライト前へはじき返して無死1塁。代走やバントを絡めず“打って獲る”選択で攻めた阪神は、1死2塁から前夜のヒーロー・糸原を代打に送り勝負に出る。だが松山のフォークに空振り三振。続く高寺の鋭いライナーも左翼の正面を突き、試合終了のサイレンが鳴った。
守りでは、伊原の後を受けた岩貞、桐敷、ドリスがそれぞれゼロを重ね、反攻の土台を作ったことは明るい材料だ。球威で押す場面とゴロを打たせる場面の切り替えが冴え、走者を背負っても動揺を見せなかった。中日打線の追加点を許さなかったことは、明日以降も白星を重ねる上で欠かせない要素となる。バッテリーは坂本がリード。細かなサインで的を散らした結果、2回以降の立て直しと終盤の無失点リレーにつながった。
ゲーム全体を見れば、初回の2失点と「あと1本」の差が勝敗を分けた。中日は1回にブライト、田中、岡林の3連打で先制、ボスラーが追加点。阪神は3回に中野の適時打で1点を返したが、同点打は出ず。スコアボードは「0-2」「1-2」のまま最終局面まで動かずに推移した。球筋の見極めや走塁のスタート、守備位置の1歩目といった“目に見えにくいディテール”の積み上げで、今日はドラゴンズに軍配が上がったといえる。
試合後、指揮官は「毎回新しいゲーム。伊原はしっかり投げ切れた」と静かに総括。初回3試合連続失点については深掘りを避け、次へ目線を向けた。結果として連勝は3でストップし、中日戦の通算は8勝9敗。ただし同夜に巨人が敗れたことで、優勝マジックは1つ減って20となった。首位チームとしての足取りは揺らいでいない。
個人では、熊谷のマルチ安打が攻守の存在感を裏付けた。3回の先陣切り、4回の連打と、下位から上位へ“渋くて効く”つなぎ役を遂行。ベンチワークの幅を広げる働きで、次戦以降のスタメン起用にも現実味をもたらした。代打では豊田が守護神撃ちで爪痕。一方で中軸のバレル率は低く、甘く見える球を取り逃がす場面も散見された。好球必打の再徹底と、ファウルでの粘着度を上げることが、再び“線”で点を奪う虎らしさの回復につながる。
伊原に話を戻せば、課題の「立ち上がり」を乗り越えればゲームを支配できる手応えは十分ある。球速のピークをどこに置くか、序盤はボール先行を避けつつ、カーブやチェンジで初見の目線をずらす工夫を増やせば、初回の失点確率は必ず下がる。背番号18が6月以来の白星をつかむために必要なのは、今日見せた“投げ切る覚悟”に、ほんの少しの序盤の工夫を足すこと。その持続と再現性が整えば、シーズンのラストスパートで再び勝ち星を積み上げられるだろう。
次カードはビジターでの戦いが続く。勝つためには細かな点の修正—ファーストストライクの捉え方、逆方向への意識、走塁の攻め—を一枚ずつ加えていくことだ。今日の敗戦は、阪神が強くなるための“処方箋の材料”を多くくれた。京セラDに響いた拍手は、勝敗を超えてチームに向けられた期待そのもの。虎はまたすぐ、勝ち方を思い出す。
