名古屋の夜が長く、そして最後までスリリングだった。9月4日、バンテリンドームでの中日20回戦は、阪神が今季初の“ブルペンデー”を敢行。来日初先発のネルソンを先頭に継投総動員で主導権を握り、打線は序盤と終盤に畳みかけて一時は7-0。ところが7回裏に2本の長短打と3ランで4点を返され、8回にも犠飛で2点差。最終回は2死一三塁まで詰め寄られたが、最後は守護神・岩崎が冷静に打ち取り、7-5で虎が執念の逃げ切りに成功した。試合時間は3時間52分、観衆は36,293人だった。
先手必勝の口火を切ったのは4番・佐藤輝明だ。初回2死一塁、佐藤輝がカウント2-2から低めのボールを片手気味に拾い、弾丸ライナーで右翼スタンドへ一直線。先制の36号2ランは、この日の勝負の流れを決めた一撃となった。バンテリンドームでは今季7本目のアーチで、2005年の金本知憲が持っていた“同球場シーズン6発”の球団記録を更新。さらにシーズン36本塁打で、1985年の岡田彰布の35本を上回った。4番の看板を背負う背番号8が、広いドームを物ともせず試合をこじ開けた。
勢いは4回にも表れた。先頭・森下の左前打が相手へ圧をかけ、続く攻めで一死一三塁。熊谷の打球は二塁・田中の選択ミスを誘い、フィルダーズチョイスで貴重な3点目をもぎ取る“嫌らしい”追加点。相手のほころびを見逃さずにリードを広げた。
ダメ押しは7回表に一気呵成。無死一二塁から近本が右翼線へ運ぶ適時二塁打でまず1点。続く森下は中堅を鋭く破る2点二塁打で“長打攻勢”。最後は大山がライトへきっちり犠飛で7点目を上積みし、スコアは7-0に。機動と強攻を織り交ぜた“つなぐ”攻撃が、敵地の空気を完全に呑み込んだ。
その7回の一撃で、近本に節目が訪れた。この日の2安打で通算1071安打とし、入団7年目までの通算安打数で“ミスター”長嶋茂雄の1070安打を抜いて歴代単独2位へ。7回のダメ押し適時二塁打と9回の三塁打でスピードと打撃の質を同時に示した。積み上げてきた1本1本が、優勝ロードの背骨になっている。
投手陣は“設計図どおり”に入った。先陣・ネルソンは来日初先発ながら3回1安打無失点。ナックルを交えた揺さぶりで上位を封じ、3回一死満塁のピンチも高めの変化球で連続フライに討ち取って切り抜けた。2番手・湯浅が4回をゼロで継ぎ、3番手・岩貞が5回から投入される“勝負どころの左”で試合の流れを掌握。虎の継投プランは中盤まで完璧だった。
だが、安心はつかの間。7回裏、一死一三塁から代打・板山に右前適時打を許すと、なお二死二三塁から4番・細川に左中間スタンドへ3ラン。あっという間に4点を返され、リードは7-4。球場の空気が一変した。8回には1死満塁から岡林の犠飛で2点差に。たっぷり余裕のはずだったスコアボードが一気に詰まり、ベンチワークと守備の1球の重みが極限まで増した。
この難所で、ブルペンの底力が試された。6回途中の火消しに入ったハートウィグは、岩貞の走者を背負いながらも無失点で切り上げ、流れの断絶に成功。島本、及川と左のリレーは右左を細かく合わせながら要所で弱点コースへ投げ切り、バックも位置取りと中継で支えた。最後の扉は岩崎。2死から四球と安打で一三塁を背負い、スタンドの鼓動が大きくなる。それでも変化球を低めに集めて詰まらせ、ゲームセット。2年ぶりの30セーブに到達した守護神が、冷や汗を笑顔に変えた。
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結果、勝利投手は3番手の岩貞、セーブは岩崎。先発登録のいない“純継投戦”でネルソン、湯浅、岩貞、ハートウィグ、島本、及川、岩崎の計7人がマウンドに上がった。藤川監督がシーズン終盤の先発陣温存と救援の適正見極めを同時に進める一戦で、プランの要だった“短い回での最大化”はおおむね奏功。課題は、7回の一打で流れが変わったあとの鎮火速度だ。ポストシーズンは“ワンプレーで潮目が変わる”世界。今日の経験は必ず生きる。
打線は4番・佐藤の決定力と1番・近本の機動力が得点力の両輪となった。佐藤輝は先制2ランに加え、4回の先頭で折れたバットでも左前へ落とす“力技”を示し、近本は要所で長打を放ち出塁後の次打者へ圧をかけた。森下はチャンスでの逆方向2点二塁打が効き、大山は犠飛で“全員で1点”の意思を実行。相手バッテリーが外一辺倒になれば逆らわず振り遅れず、内を攻められればコンタクト重視で三遊間を割る。持ち味の“対応力”が、7点という大量得点に繋がった。
守っては、内外野のポジショニングが功を奏した。とりわけ7回の反撃前、二遊間の深め配置で内安打を消すシーンがあり、終盤の連打局面でも外野の二塁返球が的確で三進を阻止。1点を与えても“致命傷を避ける”リスクマネジメントが徹底されていたことが、最終盤の2点差維持につながった。綱渡りの中で“崩れ切らない”のは、ここまでダントツで首位を走るチーム力の証だ。
タイガースにとっては薄氷の一戦を“逃げ切れた”こと自体が大きい。直前カードから僅差の攻防が続く中、敵地で7-0から7-5という難しいゲームを勝ち切った経験は、優勝争いの圧力下で必ず効く。これで9月の名古屋決戦は2勝1敗でカード勝ち越し。チームは12球団最速でCS進出を決め、優勝マジックは4に減った。甲子園に戻る6試合で、歓喜の瞬間がさらに近づく。
ネルソンの初先発3回無失点という収穫も見逃せない。未知数の球質にナックルの揺れを織り交ぜ、相手の目線を外すピッチングで先発陣の“オプション”を提示した。短い区間で強いボールを投げ続けられるなら、ポストシーズンの先発“第1巡目”を任される可能性もある。岩貞のブリッジ、ハートウィグの火消し、島本と及川の左ワンポイント——いずれもハイレベルに噛み合い、最後は岩崎がハンコを押す。理想図はおおむね描けた。
7回の失点は教訓だが、優勝を目指す旅路で避けて通れない試練でもある。あと“4”。タイガースの足取りは、確実にゴールへと近づいている。

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