延長10回、売り出し中熊谷が渾身の中前適時打!

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勝負を分けたのは、執念でこじ開けた終盤の一打だった。

2025年8月22日、神宮球場で行われたヤクルトとの20回戦は、両軍先発がテンポ良くアウトを重ねる投手戦。1−1で迎えた延長10回表、阪神は1死から大山、高寺の連打で一気に攻め込み、坂本が四球を選んで1死満塁と相手守護神を追い詰めた。ここで8番・熊谷敬宥。ファウルで粘ってスライダーをとらえると、高く弾んだゴロが二遊間を抜ける中前打に変わり、三塁走者に続いて二塁走者までもが生還。虎キチの大歓声が左翼スタンドから滝のように降り注ぐなか、ベンチ前で拳を固めた背番号4は、チームに価値ある勝利をもたらした。延長10回を制して3−1。

試合序盤はホームの声援に後押しされてヤクルトが先制した。4回、村上が高めに浮いたツーシームを完璧に捉えて左中間席へ9号ソロ。だが阪神先発の高橋遥人は動じない。直球とカットボール、スライダーを自在に投げ分け、6回を3安打1失点、今季自己最多となる11奪三振。被弾の1球を除けば危なげのない内容で、打線の反撃を待った。

その背中に応えたのが5回の攻撃だった。先頭・高寺が三塁線を破る二塁打で出塁すると、坂本の三ゴロで三塁へ進塁。続く熊谷の三ゴロで三塁手・村上のグラブをはじく失策を誘い、土壇場で同点に追いつく。技巧で崩し切れない相手に対し、走塁とプレッシャーでほころびを生んだ一点は、勝利への伏線となった。

以降は継投勝負。阪神は7回に及川、8回に石井、9回に桐敷、10回に岩崎という盤石リレーで相手の息の根を止めた。なかでも石井は8回、2死一三塁の局面で代打・長岡に対し、外角球への対応を見てからインサイドにストレートを突き込んで一ゴロ。わずかな洞察と制球の正確さで要所を抑え、自身の連続試合無失点を42に。さらに連続イニング無失点も41に伸ばし、球団の歴史に名を刻む境地へ到達した。9回をゼロで切り抜けた桐敷に勝ち星がつき、10回裏を締めた岩崎が26セーブ目を刻む。リリーフ陣の内角攻めが効いたことは、打球の質が明らかに変わった終盤の内容が証明している。

一方、ヤクルトは先発・高梨が6回1失点と粘り強く投げ、救援陣も9回までゼロでつないだが、10回に石山がつかまり勝負あり。打線は6安打止まりで、先制本塁打の村上以降は決め手を欠いた。試合時間3時間55分、白熱の攻防は最後まで集中力を切らさなかった阪神に軍配が上がった。

 

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この試合で光ったのは熊谷の勝負強さだけではない。3試合連続スタメンで遊撃を任される中、初回から堅実な守備と積極走塁でベンチに貢献し続け、最後の打席でその日最大の期待に応えた。決勝打の打球は投手前で高く弾んだ難しいゴロ。前進守備の二塁手が処理を試みる間に二遊間へ転がり、センター前へ抜けるコースを描いた。紙一重のプレーでものにした2点は、春先から磨いてきた打撃のポイントの近さ、スイングの短さがあってこそ生まれた産物だ。

高橋の投球もチームを鼓舞した。初回からテンポよくカウントを整え、カット、ツーシーム、スライダーでゴロと空振りを積み重ねる。4回の被弾後も球威が落ちる気配はなく、5回に味方が同点に追いついたことでさらにギアを上げた。11奪三振は、直球がコースに決まり始めた5回以降に集中。古賀には内角カットで空振り、伊藤、内山はスライダーで見逃しと、配球の幅の広さが際立った。球数管理を徹底し、7回の打席で代打を送られて役割を終えたが、試合を完全に壊さない「先発の責任」を果たし切った。

攻撃面では、近本の出塁と中野の打席での対応が序盤から相手バッテリーに圧をかけ、佐藤輝明のスイングも相手に重圧を与え続けた。得点には直結しなくとも、四球や粘りで投手の球数をかさませたことが、終盤の相手救援陣に疲労と乱れを呼び込んだ要因である。守備でも、大山の一塁での好捕、高寺の三遊間での横っ飛びなど、目立たない小さな好プレーが失点の芽を摘み取った。

7回以降の攻防も見どころ満載だった。7回表は大西の前に四球と暴投で2死三塁と攻め込んだが、近本が空振り三振。8回表は荘司の前に2死から連続四球で走者をためたものの、高寺が空振り三振で勝ち越しならず。9回表は星の前で2死満塁としながらあと一本が出なかった。押し切れない時間帯に守りが崩れなかったことが、最後の10回を呼び込んだ。裏の守りでは、9回先頭・内山の安打で嫌なムードが走ったが、桐敷が落ち着いて後続を封じた。10回表の決勝機は、1死からの大山の中前、続く高寺の右前で一、三塁を作り、坂本の四球で満塁。カウント1−2からの5球目を弾き返した熊谷の打球が中前へ抜け、二者生還。交代した木澤の前で木浪が浅いセカンドフライ、近本がファウルフライに倒れ、追加点こそならなかったが、勝つためには十分な2得点だった。

ヤクルトの高梨は初回の近本の先頭打を許しながら、中野を二ゴロ併殺打に仕留めて立ち直り、3回は三者連続三振で球場の空気を味方につけた。救援の大西、荘司、星は終盤までゼロを並べる意地を見せ、10回の石山も先頭の佐藤輝明を空振り三振に取るなど意地を見せたが、最後は阪神の集中力が上回った。対戦成績はこれで阪神の13勝7敗。3年連続の勝ち越しが決まった。

熊谷にとっては大きな一夜となった。ユーティリティとしてベンチにいる時間が長かった男が、今カードは3試合連続で遊撃のスタメンに名を連ね、1本のバットで流れをつかんだ。打席では「まずは低めの変化球に手を出さない」「ファウルで粘って甘い球を待つ」という基本に徹し、守備では足の運びと送球の安定でリズムを作った。レギュラー争いのただ中で、勝負所の一振りを体現し、チーム全体の士気を引き上げてくれた。

勝ちパターンの厚みは、9月以降のタフな連戦でこそ真価を発揮する。及川は左打者の膝元にクロスファイアを決め、石井は最少失点を守る局面でインハイを使い切る。桐敷は走者を出しても落ち着いてゴロを量産し、最後は岩崎が淡々と3アウトを積み上げる。相手の主軸に対して恐れず内角を突き、コーナーを丁寧に使う「攻める制球」が根付いたことで、終盤の失点が目に見えて減っている。守備・走塁の細部を含めたトータルの総合力が、僅差ゲームを拾い続ける結果に繋がっている。

神宮の夏の夜、最後に笑ったのは阪神タイガースだった。延長10回、二遊間を破る白球が外野芝生で止まるころ、左翼スタンドは黄色一色の歓喜で満たされた。宿敵の本拠地でこそ価値を増す1勝。小さな綻びを逃さず勝ち切る力は、ポストシーズンでも大きな武器になるに違いない。

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