またしても、最後の最後に虎が牙をむいた。
阪神は19日、京セラドーム大阪でヤクルトと対戦し、延長10回の末に2-1でサヨナラ勝ち。前夜18日は1点を追う九回に佐藤輝明の同点本塁打、大山悠輔のサヨナラ本塁打が飛び出したが、この夜も同じ4番、5番が土壇場で試合を動かした。前夜とは異なり派手な一発こそなかった。それでも、九回に佐藤輝が同点適時打、十回に大山がサヨナラ犠飛。形を変えても勝負どころで主軸が仕事を果たし、2夜連続の逆転サヨナラという劇的な結末を呼び込んだ。これで阪神は61勝46敗1分け、貯金は今季最多の15。2位巨人がDeNAに0-1で敗れたため、ゲーム差も4に広がった。
もっとも、八回までの展開だけを見れば、阪神にとってはかなり重苦しい一戦だった。先発の伊藤将司は初回、先頭の長岡に死球。並木の犠打で一死二塁とされ、鈴木叶の中飛で走者を三塁まで進めたが、サンタナを空振り三振に仕留めた。二回には西村の右前打、内山の左翼線二塁打で一死二、三塁。ここでも山野、伊藤琉偉を連続三振に切って取った。四回にはサンタナの右前打から一死二塁、五回には長岡に中前打を許したが、並木を1-6-3の併殺。六回は二死から赤羽に四球を与えたものの、西村を二ゴロに仕留めた。毎回のように走者を背負いながら、決定打だけは許さない。6回92球、4安打、7奪三振、2四球、1死球で無失点。三者凡退は三回だけだったが、要所で崩れなかった。
この登板には特別な思いもあった。横浜高時代の恩師、渡辺元智さんが17日に死去。伊藤将は前日に「渡辺監督に白星を届けられるように頑張っていきたい」と話していた。勝利投手にはなれなかったが、その言葉通りの粘投だった。ピンチになっても慌てず、一つずつアウトを積み重ねる。白星という形ではなくとも、6イニングに「0」を刻んだ投球は、恩師に届けるにふさわしい内容だった。
一方の打線は、ヤクルト先発・山野太一を最後まで攻略できない。初回、近本が右前打を放って出塁し、森下の空振り三振の間に二盗を決めたが、佐藤輝が二飛。二回は大山の右前打も坂本が見逃し三振、谷端が三併打。最大の好機は五回だった。大山がバットを折りながら左前打、坂本も左前打で続き、谷端が初球をきっちり投前へ転がしてプロ初犠打。一死二、三塁まで攻めた。それでも岡城が空振り三振、伊藤将が遊ゴロに倒れて無得点。七回にも大山が四球で歩いたが、後続が倒れた。山野は8回114球を投げ、5安打1四球、実に11奪三振で無失点。阪神打線は八回までホームを踏めなかった。
そして均衡が破れたのは八回表だった。三番手・岩崎が先頭の長岡に四球。並木に犠打を決められた後、鈴木叶を遊直に抑えて二死二塁としたが、モンテルを申告敬遠。続く赤羽にも四球を与えて満塁とし、西村にも3-1からボール。安打を一本も許さないまま、押し出し四球で先制点を献上した。なお二死満塁。ここで藤川監督は岩崎を降ろし、神宮僚介を投入。神宮が内山を2-2から見逃し三振に仕留め、最少失点で食い止めた。0-1。八回を終えた時点で、前夜に続いて敗色は濃くなっていた。だが、この「あと1点で追いつける」という状況を残したことが、再び九回のドラマにつながった。
九回、植田が一気に三塁へ―そして佐藤輝がひと振り
八回まで11三振を奪われ、得点はゼロ。九回の攻撃を迎えた時点で、残されたアウトは三つだった。しかし前夜、同じヤクルトを相手に九回から試合をひっくり返した打線には、まだ一仕事が残っていた。ヤクルトは8回無失点の山野から廣澤へ継投。その立ち上がりを、3番・森下が逃さなかった。先頭打者として中前打。まず同点の走者が塁に出た。藤川監督はすかさず代走・植田海を送った。ここから試合の空気が一変する。
打席には4番・佐藤輝。廣澤が一塁へけん制を繰り返す中、植田はカウント1-1からスタートを切った。二塁へ滑り込んで盗塁成功。さらに捕手・鈴木叶の送球がそれ、植田はそのまま三塁まで進んだ。一瞬で無死三塁。長打どころか安打さえ必要のない局面を、足のスペシャリストが作り出した。前夜は佐藤輝、大山のバットで球場を沸かせた阪神が、この夜はまず植田の脚でヤクルト守備陣を揺さぶった。スポーツナビのエキサイティングプレーヤーにも植田が選ばれ、「途中出場で1安打1盗塁をマーク。チームに勝利を呼び込んだ」と評価された。
そして佐藤輝だ。ここまでの3打席は二飛、見逃し三振、二飛。山野の前に快音を封じられていた。それでも、試合を左右する第4打席で結果を出す。カウント2-2から廣澤の外角チェンジアップを捉え、前進守備の一、二塁間を破る右前適時打。植田が生還し、ついに1-1。前夜は九回に清水から29号同点ソロ。この日は一発を狙うのではなく、目の前の1点を取りにいく打撃で再びチームを救った。佐藤輝は試合後、「いい状態が続いていると思う」と自身の打撃を振り返っている。数字だけではなく、勝敗が決まる局面で4番のバットが続けて結果を残したことに価値があった。
同点にした後も攻撃は終わらない。大山は中飛に倒れたが、一死一塁から今度は佐藤輝自身がスタートを切った。坂本の打席で二盗を成功させ、今季6個目の盗塁。打つだけではなく、自らサヨナラの走者として得点圏へ進んだ。坂本は空振り三振で二死となったものの、代打・前川が申告敬遠、さらに代打・髙寺が四球を選び満塁。代打・伏見までつないだ。伏見は三ゴロに倒れ、この回での決着こそならなかったが、完全に流れは阪神へ移っていた。九回は森下の安打、植田の盗塁と相手失策、佐藤輝の適時打、さらに佐藤輝の盗塁、前川と髙寺の出塁。打つ者、走る者、選ぶ者がそれぞれの役割を遂行し、八回まで沈黙していた打線が一気に動き始めた。
藤川監督は試合後、選手たちについて「みんなが自分の仕事、ベストを尽くそうとしてくれた」と振り返った。この九回ほど、その言葉を表す攻撃もない。森下には出塁、植田には走塁、佐藤輝には走者を返す仕事が求められ、それぞれが形にした。前夜のような連続本塁打ではなくても、1点は取れる。大振りだけではない勝ち方を示した九回だった。
近本、熊谷、植田がつなぎ、大山が決めた―連夜のサヨナラ
追いついた直後の十回表。阪神のマウンドには6番手・工藤泰成が上がった。同点にした直後だけに、ここで勝ち越されれば九回の反撃が消えてしまう重要なイニングだった。工藤は先頭の並木を二ゴロ。鈴木叶には右前打を許したものの、モンテルを三ゴロで二死一塁とし、最後は赤羽を7球目のカットボールで空振り三振。1安打を許しながら15球で無失点に抑えた。最速163キロを誇る2年目右腕は、13日の巨人戦以来6日ぶりの登板で役目を果たし、その裏のサヨナラによって今季3勝目を手にした。
十回裏、ヤクルトは廣澤から星へスイッチ。先頭は1番・近本だった。近本はセンターへ運び、この日3本目の安打で出塁する。初回の右前打、八回の左前打、そして十回の中前打。5打数3安打に1盗塁。最終盤までリードオフマンとして仕事を重ねた。続く熊谷は迷わず送りバント。捕手前へきっちり転がし、一死二塁とする。ここで打席に入ったのは、九回に代走から出場した植田だ。1アウト二塁から中前打。近本は三塁で止まり、一死一、三塁。途中出場の植田が今度はバットでも仕事を果たした。
打席には4番・佐藤輝。ヤクルトベンチは勝負を避けた。申告敬遠で一死満塁。そこで巡ってきたのが5番・大山だった。星の初球はボール。1-0からの2球目、大山は左翼へ打ち上げた。十分な飛距離の犠牲フライ。三塁走者・近本がホームを踏み、2-1。ゲームセット。前夜は佐藤輝の同点弾に続いて左翼席へサヨナラ本塁打。そしてこの日は、本塁打を必要としない場面で確実に外野へ運んだ。大山のこの日の打席は右安、左安、四球、中飛、左犠飛。序盤から2安打でチャンスを作り、最後の最後には打点を挙げる。2試合連続のサヨナラ打点だった。
前夜のサヨナラは、佐藤輝、大山の2者連続本塁打という豪快なものだった。19日はまるで違う。森下が出て植田が走る。佐藤輝が単打で返す。延長では近本が出て熊谷が送り、植田がつなぎ、相手が佐藤輝を歩かせ、大山が犠牲フライを打つ。ホームランがなくても同じ2人が勝負を決め、しかもそこへ至るまでに何人もの選手が介在した。藤川監督は佐藤輝と大山について「勝負心を持っている」と評した。前日は本塁打、この日は適時打と犠飛。求められる打撃が違っても、最後に得点へ結びつける。その勝負強さが、2夜続けて表れた。
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「リードされても慌てず」全員野球が生んだ連夜の劇勝
スコアだけを見れば、佐藤輝が追いつき、大山が決めた試合だ。しかし2-1という結果をたどれば、2人だけでは成立しなかったことが分かる。伊藤将が6回無失点。七回は木下が山野に四球を与えながら伊藤琉偉を併殺に仕留めて無失点。八回は岩崎が4四球で1点を失ったが、神宮が二死満塁で内山を見逃し三振。九回は及川が増田を空振り三振、伊藤琉偉を中飛、長岡を遊ゴロと三者凡退。十回は工藤が1安打を許してもゼロを刻んだ。阪神投手陣は6人でヤクルト打線を5安打1得点に封じた。岩崎が崩れた場面でも傷口を広げず、「1点だけ」に抑え続けたことが九回の同点、十回のサヨナラを可能にした。
この点は、前夜の劇勝とも重なる。18日の一戦を振り返った野球評論家の鳥谷敬氏は、九回の佐藤輝、大山の連続本塁打だけでなく、ビハインドの終盤を無失点でつないだ救援陣の働きを重要視していた。19日は顔ぶれこそ違うが、試合を壊さず1点差のまま打線へ渡したことが逆転への条件になった。「劇的な一打」だけに目を奪われれば見えにくいが、相手に次の1点を与えなかったからこそ、九回に佐藤輝の一本で振り出しへ戻せた。これは2夜連続のサヨナラを考えるうえで外せないポイントだ。
打線も同様だった。近本は3安打1盗塁。森下は九回の先頭で中前打を放ち、植田につないだ。植田は代走で盗塁を決めて相手の悪送球も誘い、十回には自身唯一の打席で中前打。熊谷は4打数無安打3三振だったが、最後の打席では送りバントを成功させた。谷端はプロ初犠打で五回に一死二、三塁を作った。前川は九回に申告敬遠、髙寺は四球を選び、二死満塁まで攻めた。結果だけを拾えば凡退した選手もいる。それでも、必要な場面で一つ塁を進める、一つアウトを相手に使わせる、一つ四球を選ぶ。そうしたプレーが十回の大山まで打順をつないだ。阪神は9安打、4四球、2犠打、3盗塁。得点はわずか2点だったが、その2点にチームの機能が凝縮されていた。
36,175人が見守った3時間50分の攻防。八回に先制され、九回を迎えた時点では0-1。それでも前夜に続いて佐藤輝が土壇場で追いつき、前夜に続いて大山が最後の1点をたたき出した。18日は本塁打2本、19日は走塁、単打、犠打、申告敬遠、犠牲フライ。勝ち方はまるで違う。それでも共通していたのは、1点差を諦めず、次の打者へ、次の投手へと試合を渡し続けたことだった。藤川監督が口にした「自分の仕事」という言葉が、そのまま形になったような2-1での勝利。
これで首位阪神は今季最多の貯金15とし、2位巨人との差を4ゲームに広げた。最短では20日にも優勝マジック29が点灯する状況に入った。夏場のペナントレースで、ただ勝つだけではない。負けそうな試合を二晩続けて勝利に変えた。猛虎の強さを強烈に印象づける、連夜のサヨナラ劇となった。
