安打は出る。走者も出る。それでも、ホームが遠かった。
阪神は20日、京セラドーム大阪でヤクルトに1-4で逆転負け。3連勝で迎えたカード最終戦を落とし、連勝は「3」で止まった。相手を上回る9安打を放ちながら得点はわずか1。中でも象徴的だったのが、ヤクルト先発・高橋奎二との6イニングだった。高橋から8安打を放ち、四球も1つ選んだ。それでも奪った得点は二回の坂本誠志郎によるソロ本塁打だけ。高橋の最終成績は6回108球、被安打8、5奪三振、1四球、1失点だった。
数字だけを見れば阪神打線が高橋を捉えていた。それでもスコアボードには「1」しか刻めなかった。初回から、その日の流れは表れていた。先頭の近本光司が右前打。髙寺望夢が右飛に倒れた後、森下翔太も左前打を放ち、一死一、二塁とした。佐藤輝明の右飛で近本が三塁へ進み、二死一、三塁。ここで5番・大山悠輔に一打先制の場面が回ったが、二ゴロに倒れて無得点に終わった。それでも二回、7番・坂本が均衡を破った。前川右京が空振り三振に倒れた一死走者なし。カウント1-1から高橋の球を捉え、左中間席へ運ぶ7号ソロ。8月に入って5本目となる一発で阪神が1-0と先手を取った。しかし、この得点が最後まで虎の唯一の得点になるとは、この時点では誰も想像できなかったはずだ。
三回も二死から森下が中前打で出塁したが、佐藤輝が左飛。高橋に三者凡退のイニングを作らせているわけではない。塁上には何度も走者を置いた。それでも「あと一本」が出ない。さらに特徴的なのは、高橋から放った8安打のうち、坂本の本塁打を除く7本がすべて単打だったことだ。安打を一本一本積み重ねながら、得点圏で走者をかえす一打には結び付かなかった。高橋を攻略できなかったというより、攻めながら仕留め切れなかった。阪神にとっては、そんな6イニングだった。
坂本7号、森下は3方向へ猛打賞 四回、六回の好機もホームが遠く
打線の中で最も高橋を捉えていたのは森下だった。初回は左前打、三回は中前打、五回は右前打。左、中、右へ打ち分け、今季9度目の猛打賞を記録した。高橋に対して3打数3安打。相手の守備位置をものともせず、広角に単打を積み重ねた。それでも自身が出塁した三度の攻撃はいずれも得点につながらない。試合後の森下は3安打について「まあ普通です。いつも通りですね」と淡々と振り返った。個人として結果を残しても、それが得点に変わらない。虎打線がこの日抱えたもどかしさを、その数字が物語っていた。
最大の分岐点の一つは1-1の四回だった。先頭の大山が8球粘って四球を選ぶ。前川は右飛に倒れたが、坂本が中前へポテンヒットを落とし、一死一、三塁。再び勝ち越しの絶好機が訪れた。打席には8番・元山飛優。阪神ベンチはセーフティースクイズを選択した。元山は一塁方向へ転がしたが、三走・大山は本塁でアウト。二死一、二塁となり、続く下村海翔が空振り三振に倒れた。好機は得点に変わらなかった。この場面について試合後に問われた藤川球児監督は「作戦の1つですから」と説明。相手守備の対応についても「それは勝負ですから」と受け止めた。五回には二死から森下が右前打を放ち、この日3本目の安打。だが、4番・佐藤輝が空振り三振に倒れた。
そして、1-4と3点を追う六回。高橋を引きずり降ろす最後のチャンスがやってきた。先頭の大山が右前打、続く前川も中前打。無死一、二塁。高橋はすでに多くの走者を背負い、球数も100球に近づいていた。ここで打席には、この日唯一の得点を生んでいた坂本。しかし見逃し三振に倒れて一死。元山は捕邪飛で二死となり、下村の代打として送られた中野拓夢も内角低めの直球を打ったが遊直。無死一、二塁から三者が倒れ、無得点に終わった。高橋が投げた六回までに阪神は8安打1四球。初回は二死一、三塁、四回は一死一、三塁、六回は無死一、二塁まで進めながら、タイムリーは一本も出なかった。高橋に許した唯一の失点は坂本の一発だけ。阪神側から見れば「8安打した」試合でありながら、高橋側から見れば「8安打されても1点で止めた」試合だった。七回以降はウォルターズ、リランソ、清水の継投に対し、阪神が放った安打は九回の元山の中前打だけ。前半で高橋を捉えながら得点を積み重ねられなかった代償は、そのまま最後まで残った。
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下村、六回2死で越えられなかった「先発の山場」
打線が高橋を攻め切れない一方、先発・下村は五回まで粘っていた。立ち上がりは上々だった。初回は長岡秀樹を空振り三振、岩田幸宏を三ゴロ、宮本丈を遊ゴロ。二回も増田珠を三ゴロ、西村瑠伊斗、内山壮真を連続空振り三振に仕留め、2イニングを完全投球。坂本の一発で先制してもらった直後の三回、一死から武岡龍世に2-0から同点ソロを浴びた。これがこの日初めて許した安打だった。その後、二死から長岡に中前打を浴びたものの、岩田を一ゴロに打ち取って1-1のまま踏みとどまった。四回には一死から増田の中前打、西村の右前打で一、三塁とされたが、内山を空振り三振、松本直樹を三ゴロ。五回は武岡を左飛、高橋を二ゴロ、長岡を空振り三振と三者凡退に退けた。
問題は六回だった。先頭の岩田に左前打。宮本を中飛に打ち取り、増田を遊ゴロに仕留めて二死一塁までこぎ着けた。あと一つ。しかし増田に二盗を許し、西村には四球。二死一、二塁となったところで6番・内山との勝負を迎えた。フルカウントから投じた球を捉えられ、右方向への二塁打。二者が生還し、1-3と勝ち越された。ここで藤川監督は下村を降板させ、湯浅京己を投入。だが、続く松本直にも2-2から右翼への適時二塁打を浴び、内山が生還して1-4。下村の失点は「4」まで膨らんだ。最終成績は5回2/3、101球、被安打6、5奪三振、1四球、4失点。序盤から崩れたわけではない。五回終了時までは1失点。それだけに、六回二死からアウト一つを取れなかったのが痛かった。
下村自身も試合後、「六回はやっぱり、2アウトまで行って、何とかあと一つというところだったんですけど、粘り切れなかった」と振り返り、「あそこで抑えられる力を付けないといけない」と課題を口にした。藤川監督も「先発投手としては山場ですね」と表現。「いくつも壁はあると思いますからね。経験していくしかない」とし、乗り越えるためには「挑戦すること」と若い右腕に求めた。評論家の星野伸之氏も、この日の登板を受けて、先発投手事情が変化している中では下村に「最低6回」は投げてもらいたいとの見方を示し、一発で投球のリズムを崩さないことを課題に挙げている。前回登板でプロ初勝利を手にした24歳にとって、この日の六回は次の段階へ進むための宿題となった。武岡の一発を浴びながら五回までは試合を作った。だからこそ、二死までたどり着いた六回を終えられるかどうか。指揮官の言う「山場」は、そこにあった。
9安打1得点で連勝ストップ 「ズルズルいかない」意識を
結果だけを見れば1-4。しかし、投手陣が一方的に崩れた試合ではなかった。下村が降板した後、湯浅は松本直に適時二塁打を許したものの、その後は踏ん張った。七回は桐敷拓馬が長岡を一ゴロ、岩田を三ゴロ、赤羽由紘を空振り三振と三者凡退。八回はセベリーノが増田を空振り三振、西村を遊飛、内山を遊ゴロに抑え、こちらも3人で片付けた。セベリーノは試合後、「毎日いい結果を出すためにしっかり準備しているので、今日はいい結果を出せてよかった」と振り返った。九回の神宮僚介も先頭・松本直の打球で大山に捕球ミスが出て走者を背負ったが、武岡を左飛、代打・サンタナ、長岡を連続三振に仕留めて無失点。七回以降、ヤクルトに追加点を与えなかった。
佐藤輝もバットでは4打数無安打に終わった一方、三塁守備では好プレーで下村を支え、「よかったです。また明日、頑張ります」と前を向いた。この日は近本にとって通算1000試合出場という節目でもあった。初回には右前打を放ったが、その後は左飛、遊ゴロ、中飛、三ゴロで5打数1安打。チームとしては9安打を放ちながら、ヤクルトの7安打を得点で上回れなかった。最も悔しさをにじませたのは、先制弾を放った坂本だろう。二回の7号ソロに加えて四回にも中前打を放ち、4打数2安打1打点。それでも自身の一発は勝利にはつながらなかった。試合後は「下村も頑張って投げてくれていたし、その後もみんな良い形で投げられたと思う」と投手陣に触れた上で、「ズルズルいかないように、明日またみんなで一個勝てるようにやるだけ」と言い切った。
この敗戦で阪神の連勝は3でストップ。2位・巨人が勝ったためゲーム差は3に縮まり、この日にも可能性があった優勝マジックの点灯は最短22日に持ち越された。ただ、藤川監督は好機を作り続けた打線について問われても、敗戦を必要以上に引きずる言葉は残さなかった。「また明日しっかり横浜で戦うということに尽きると思いますね」。8安打を浴びせながら高橋から奪えたのは1点。四回一死一、三塁、六回無死一、二塁を生かせなかった攻撃。五回まで1失点で粘りながら、六回二死から3点を失った先発。勝負どころで一本、あと一つが届かなかった。それが1-4というスコアになった。長いペナントレースでは、安打数がそのまま得点にも勝敗にもならない夜がある。必要なのは、この一敗を繰り返さないこと。坂本が言うように「ズルズルいかない」ための次の一戦が、横浜で待っている。
