またしても、あと一歩が遠かった。阪神は6月11日、みずほPayPayドームでソフトバンクと対戦し、2-3で敗れた。前の2試合は10-4、6-2と点差をつけられての連敗。この日は一方的な展開ではなかった。先に点を取り、追いつき、終盤には勝ち越し機も作った。9安打を放ち、相手の7安打を上回った。それでも勝てなかった。数字だけを見れば、接戦。だが中身を追えば、勝敗を分けたのは、要所で一本を出す力、ひとつの走塁で本塁を陥れる力、そして勝負どころで相手に押し切らせない総合力だった。
阪神は四回、5番・大山悠輔のバットで試合を動かした。ここまでスチュワート・ジュニアの前に得点を奪えず、初回は2死から森下翔太が左二塁打を放つも、佐藤輝明が空振り三振。三回も先頭・坂本誠志郎の左前打、熊谷敬宥の犠打で1死二塁としたが、立石正広、中野拓夢が連続三振に倒れていた。嫌な流れが漂い始めた四回2死、大山が外角の速球を振り抜いた。低い弾道で右翼ホームランテラス席へ突き刺す7号ソロ。5月22日の巨人戦以来となる一発で、タイガースが先制した。笑顔を見せずにダイヤモンドを一周した背番号3の姿には、勝ちに飢える主砲の意地がにじんだ。
しかし、リードは長く続かなかった。その裏、先発の伊藤将司がつかまる。三回までは無安打投球。久しぶりの1軍マウンドで、立ち上がりは持ち味を出していた。初回は正木智也を遊ゴロ、周東佑京と近藤健介を連続三振。二回も栗原陵矢を二ゴロ、柳田悠岐を三邪飛、廣瀨隆太を投ゴロ。三回も野村勇、海野隆司、牧原大成を3者連続三振に仕留め、鷹打線を封じていた。だが1点をもらった直後の四回、先頭の正木に左翼席へ同点ソロを浴びた。さらに周東に一塁内野安打、近藤に右前打を許して無死一、三塁。栗原の中犠飛で勝ち越しを許した。試合後の伊藤将は、ストレートでファウルを取れたこと、インコースへ投げ切れた感覚を口にし、次へつなげる姿勢を示したが、結果は5回3安打2失点。復帰登板として粘りは見せた一方で、先制直後に流れを手放した事実は重く残った。
大山が火をつけ、前川がつないだ だが好機の残塁が重く響く
阪神打線は沈黙したわけではない。むしろ、この日はチャンスを何度も作った。五回には先頭の髙寺望夢が中前打で出塁。坂本の遊ゴロで1死二塁となり、熊谷がセーフティーバントで内野安打をもぎ取って一、三塁。ここで上位に回ったが、立石が空振り三振、中野が中飛。得点機を逃した。初回、三回、五回と、走者を得点圏に置きながら仕留めきれない。こうした小さな取りこぼしが、1点差ゲームでは最後に大きな影となる。
それでも六回、タイガースナインは食い下がった。1死から佐藤輝が右前打で出塁し、大山が四球を選んで一、二塁。ここで6番・前川右京が意地を見せた。フルカウントから右前へ運び、二走・佐藤輝が生還。2-2の同点に追いついた。前川は「きれいなヒットではなかった」としながらも、どんな形であれ同点にできたことを喜んだ。3試合連続で指名打者として起用される中、結果で応えた一打だった。博多の虎党を沸かせ、流れを引き戻すには十分な一振りだった。
ただ、ここでも勝ち越しまで届かなかった。なお1死一、三塁の場面で、一走・前川に代わって島田海吏が送られたが、島田は盗塁死。2死三塁となった後、髙寺が四球を選んで一、三塁としたものの、坂本が三ゴロに倒れた。追いついた直後に一気にひっくり返せなかったことが、この試合の分岐点のひとつだった。ソフトバンクの救援陣を相手に、阪神は何度も圧をかけた。しかし、圧を得点へ変える最後の一打が出ない。9安打を放ちながら2得点。安打数で上回っても、スコアボードに刻めなければ勝利には結びつかない。
最大の好機は七回だった。ソフトバンク3番手・木村光に対し、2死から中野が中前打で出塁。森下が死球で続き、佐藤輝が四球を選んで満塁。打席には、この日先制弾を放っている大山。虎党の期待は一気に膨らんだ。だが、主砲のバットは空を切った。空振り三振。大山は四回に弾丸ライナーで一時は流れを呼び込んだが、勝負どころの満塁では仕留めきれなかった。試合後には「勝つか負けるかなので」と責任を受け止めた。一本出れば勝ち越し、試合の流れを完全に奪えた場面。だからこそ、七回表の無得点は重かった。
勝負を分けた七回裏のクロスプレー 藤川監督が見た“ひとつ上のレベル”
その直後の七回裏、試合は決した。阪神は3番手・畠世周をマウンドへ送る。先頭の廣瀨を空振り三振に斬って取ったが、続く野村勇に中前打を許した。海野の犠打で2死二塁。打席には9番・牧原大成。カウント1-0から右前へ運ばれた。右翼の佐藤輝は前進して打球を処理し、本塁へワンバウンド送球。強く、正確な返球だった。捕手・坂本も懸命にタッチへいった。だが二走・野村のヘッドスライディングが、わずかに上回った。判定はセーフ。阪神ベンチはすぐにリクエストしたが、リプレー検証の結果も変わらなかった。2-3。これが決勝点となった。
藤川球児監督は試合後、このプレーに言及した。佐藤輝のバックホーム、坂本のタッチを評価したうえで、二塁から本塁へ戻ってきた走塁のレベルの高さを認めた。悔しさをにじませながらも、そこに差を見た。あの一瞬は、単なる適時打ではない。二塁走者が打球判断を誤らず、迷わず本塁へ突入し、捕手のミットをかいくぐるように左手を伸ばす。強いチームが接戦で勝ち切るためのディテールが、凝縮された場面だった。
阪神にミスが出たわけではない。むしろ、佐藤輝の返球も、坂本の捕球からタッチへの動きも、高いレベルのプレーだった。それでも1点を奪われた。藤川監督が「学びに変えて強くならなきゃいけない」と語ったのは、そこに理由がある。大敗では見えにくい差が、接戦だからこそ鮮明に浮かび上がった。初戦、2戦目は相手の長打力に押し込まれた。だが3戦目は違った。先制し、追いつき、勝ち越し機を作り、守備でも好返球を見せた。それでも最後はソフトバンクが1点をもぎ取り、阪神は1点を取り切れなかった。
六回の守りでは、2番手・湯浅京己が踏ん張った。近藤の右前打、栗原の右翼線二塁打で2死二、三塁のピンチを招いたが、柳田を二ゴロに打ち取って無失点。試合の流れをつなぎ止める大きな仕事だった。ただ、その最後のプレーで右足を痛めた。試合後には歩行も難しそうな様子で、トレーナーの肩を借りる形となった。藤川監督も足をひねったことに触れ、ベストを尽くしてくれたと話した。接戦を落としただけでなく、救援陣の一角に不安を残す敗戦にもなった。
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9安打2得点の現実 前2戦とは違う接戦でも、勝ち切る力に差
この3連戦、阪神はソフトバンクの力を嫌というほど味わわされた。初戦は10失点で敗れ、2戦目も6失点。そしてこの日は3失点に抑えながら、2-3で敗れた。前の2試合とは違い、試合は最後まで分からない展開だった。だが、接戦に持ち込めたことを慰めにするには、あまりにも勝ち筋があった。初回の森下の二塁打、三回の坂本の出塁と熊谷の犠打、五回の一、三塁、六回の同点後の一、三塁、七回の2死満塁。阪神は何度もソフトバンクを追い詰めた。しかし、得点は大山のソロと前川の適時打の2点だけ。一本の重みを痛感する敗戦だった。
特に七回表裏の攻防は象徴的だった。阪神は2死満塁で大山が空振り三振。ソフトバンクは2死二塁で牧原が右前適時打。どちらも2死から作った場面だったが、結末は正反対だった。阪神は塁上を埋めても返せず、ソフトバンクは二塁走者を一気に返した。接戦で問われるのは、派手な数字だけではない。得点圏での一振り、走者のスタート、外野手のチャージ、捕手のタッチ、ベンチの判断。そのすべてが絡み合い、最後に1点差として表れる。
交流戦の勝ち越しなしが決まり、今季2度目の同一カード3連敗。昨年の日本シリーズで敗れた相手に、またしても苦杯をなめた。藤川監督は相手のパワー、走塁、プレーの質を認めたうえで、悔しさを力に変える姿勢を示した。大山には復調を感じさせる7号が出た。前川には同点打が出た。伊藤将も5回2失点と試合を壊さず、湯浅もピンチをしのいだ。材料はあった。だが、勝利はなかった。
過去2戦の大敗から接戦へ持ち直したことは確かに前進だった。しかし、強い相手に勝ち切るためには、接戦にするだけでは足りない。最後の1点を奪い、最後の1点を守る。その差を埋めない限り、同じ悔しさは繰り返される。2-3のスコアは惜敗に見える。だが、タイガースに突きつけられたのは、惜しかったでは済まされない「勝ち切る力」の差だった。
