猛虎打線が、敵地マツダスタジアムで真夏のような熱を帯びた。
6月28日の広島戦、阪神は序盤に先制しながら一度は逆転を許す苦しい展開を、終盤の集中打で一気にひっくり返した。終わってみれば14安打12得点。スコアボードに並んだ「12」の数字は、先制、同点、勝ち越し、ダメ押しと、試合の局面ごとに必要な一本を積み重ねた結果だった。阪神が広島を12-3で下し、連敗を2で止めた。
試合はいきなり動いた。初回、1番・髙寺望夢は左飛に倒れたが、2番・中野拓夢が中前打で出塁する。1死一塁で打席に入った3番・森下翔太が、広島先発・岡本駿の球を完璧にとらえた。打球は高々と舞い上がり、左翼席へ飛び込む先制17号2ラン。森下はこの一発でチームに2点をもたらし、阪神ベンチに一気に勢いを呼び込んだ。4番・佐藤輝明は中飛、5番・大山悠輔は見逃し三振に終わったが、試合の入りとしては申し分ない。今季も打線の中軸を担う森下が、いきなりスコアを動かした。
ただ、試合は簡単には進まなかった。阪神先発の髙橋遥人は、初回に広島1番・名原典彦を投ゴロに仕留めたものの、2番・大盛穂に中三塁打を許す。1死三塁から3番・菊池涼介に中犠飛を打たれ、広島が1点を返した。2回表の阪神は、前川右京が一ゴロ、坂本誠志郎が左飛に倒れた後、熊谷敬宥が中前打で出塁したが、髙橋遥人が遊飛に倒れて無得点。その裏、広島は佐々木泰が右翼席へ3号ソロを放ち、試合は2-2の同点に戻った。阪神としては初回の2点リードを守り切れず、序盤から主導権を奪い合う展開となった。
3回表、阪神は髙寺が空振り三振、中野が中飛、森下が三ゴロで三者凡退。3回裏は髙橋が矢野雅哉を見逃し三振、岡本を空振り三振に仕留めるなど立て直した。だが4回表、佐藤輝が空振り三振に倒れた後、大山が左翼線へ二塁打を放ち、1死二塁の勝ち越し機を作る。続く前川は見逃し三振。坂本が四球で歩き、2死一、二塁としたが、熊谷も見逃し三振に倒れた。好機を逃した直後の4回裏、広島は小園海斗の左前打、髙橋のボークなどで走者を進め、石原貴規の中前適時打で3-2と勝ち越した。阪神にとっては、流れを手放しかけたイニングだった。
それでも、この日の阪神はここで沈まなかった。5回表は髙橋が空振り三振、髙寺が遊ゴロに倒れた後、中野が四球を選んだが、森下は左飛。5回裏は髙橋が名原を右飛、大盛を空振り三振に取り、菊池に中前打を許しながらも坂倉将吾を左飛に抑えた。そして6回表、眠っていた長距離砲が試合を振り出しに戻す。先頭の佐藤輝明が右翼席へ16号ソロ。16試合ぶりの一発で、阪神が3-3の同点に追いついた。大山は中飛、前川は左飛、坂本は右飛に倒れたが、この一本で流れは再び阪神側へ傾き始めた。
髙橋は6回裏、小園を二直、佐々木を遊ゴロ、石原に左前打を許した後、矢野を見逃し三振に斬った。6回8安打3失点。決して圧倒的な内容ではなかったが、粘りながら試合を壊さなかった。そして、その粘りに打線が応えたのが7回表だった。ここから猛虎打線の本領発揮である。
中野、30歳バースデーに決勝三塁打 7回の4連打が試合を決めた
3-3の7回表、阪神ベンチは髙橋遥人に代えて代打・福島圭音を送った。先頭の熊谷は遊ゴロに倒れ、1死走者なし。ここで福島が右前打を放つ。スコアだけを見れば一本の単打。しかし、この一打が大きかった。勝利投手の権利が消えかけていた髙橋に、再び白星を呼び込む起点となったからだ。福島は代打としての役割を果たし、打線に火をつけた。
続く髙寺が中前打でつなぎ、1死一、二塁。ここで打席に立ったのが、この日30歳の誕生日を迎えた中野拓夢だった。初回には中前打を放ち、5回には四球で出塁。第3打席までの内容も悪くなかったが、最大の見せ場はこの第4打席だった。広島は先発・岡本から髙太一へスイッチ。中野はその髙の球を右中間へ運んだ。打球は外野を破り、二者が生還。中野は三塁へ到達し、阪神が5-3と勝ち越した。
誕生日に決勝打。しかも、ただのタイムリーではない。停滞しかけた試合を一気に動かす2点三塁打だった。中野はこの一打で12試合連続安打も継続。試合後には、勝利に貢献できたことを何より喜び、自分に回ってきた好機で決めたい思いがあったことを語っている。派手な言葉より、プレーで示すのが中野らしさだ。三塁ベース上で見せたガッツポーズには、30歳の節目を自ら祝うだけでなく、チームを救った充実感がにじんでいた。
なおも1死三塁で、森下が続いた。初回に先制2ランを放った男は、ここでも勝負強かった。中前へ適時打を放ち、中野が生還。阪神は6-3とリードを広げた。初回の一発、7回の中前適時打。森下は試合の入口と勝負どころの両方で打点を挙げた。4番・佐藤輝は空振り三振、大山は中飛に倒れたが、7回は福島、髙寺、中野、森下の4連打で3点。阪神が勝ち越しに成功し、試合の主導権を完全に握った。
7回裏から阪神は継投に入った。2番手・工藤泰成は広島の代打・ファビアンを見逃し三振に仕留め、名原を左飛。大盛に右前打を許したが、菊池を二ゴロに抑えて無失点。8回表は広島3番手・中﨑翔太の前に糸原健斗が中飛、坂本が右飛、熊谷が空振り三振で三者凡退に終わったが、8回裏は岩崎優が登板。坂倉を空振り三振、小園を左飛、佐々木を三ゴロに抑え、3点リードを守った。
この中盤から終盤にかけての流れこそ、この試合の分岐点だった。4回に勝ち越せず、その裏に勝ち越された阪神は、普通なら重苦しい展開になってもおかしくなかった。だが、6回に佐藤輝の一発で追いつき、7回に下位打線から代打、上位打線へとつながって一気に勝ち越す。阪神が一度は広島へ渡しかけた流れを、打撃内容とつなぎで取り戻した。勝利の核心は、まさにそこにあった。
Tiktok動画はこちら
森下がプロ初5打点 佐藤輝も16号、9回に一挙6点の猛攻
試合を決定づけたのは9回表だった。6-3。3点差でも、マツダスタジアムでの広島戦に油断は禁物だ。だが、この日の阪神打線は最後まで手を緩めなかった。広島4番手・黒原拓未に対し、先頭の福島が四球を選ぶ。髙寺が左前打で続き、無死一、二塁。中野は見逃し三振に倒れたが、またしても森下が打席に入る。
1死一、二塁。ここで森下は左翼へ2点適時二塁打を放った。福島、髙寺が生還し、8-3。初回の先制2ラン、7回の中前適時打に続き、この一打でこの日の打点は5に到達した。5打数3安打5打点。プロ初の1試合5打点という大暴れだった。森下はこの試合で17号を放ち、本塁打数でも存在感を示した。今季8度目の猛打賞で打率も3割台に乗せ、6月に入っても好調を維持している。本人は結果に浮かれることなく、淡々と積み重ねる姿勢を崩していないが、打線の中心に森下がいる脅威は、この試合であらためてはっきり示した。
森下の二塁打で一気に広島を突き放すと、4番・佐藤輝明も続いた。1死三塁から左翼へ適時二塁打を放ち、9-3。6回の16号ソロに続く、この日2本目の長打だった。2回の第1打席は中飛、4回は空振り三振、7回も空振り三振。それでも、同点弾と9回の適時二塁打で、4番として必要な得点に絡んだ。森下と佐藤輝がともに長打で打点を挙げる。阪神にとって、これほど相手に重圧を与える形はない。
なおも勢いは止まらない。大山が死球で出塁し、1死一、二塁。ここで代打・木浪聖也が登場した。木浪は右翼へ適時二塁打を放ち、佐藤輝が生還。10-3とした。坂本は三ゴロに倒れたが、2死二、三塁から熊谷が中前へ2点適時打。大山、木浪が生還し、スコアは12-3となった。熊谷は2回に中前打、4回は見逃し三振、7回は遊ゴロ、8回は空振り三振だったが、最後の打席でしっかり走者を返した。スタメン野手だけでなく、代打の福島、木浪も得点に絡んだところに、この日の打線の厚みがあった。
阪神の打撃成績を見れば、爆発ぶりは明らかだ。髙寺は5打数2安打。中野は4打数2安打2打点1四球。森下は5打数3安打5打点。佐藤輝は5打数2安打2打点。大山は3打数1安打1死球。坂本は4打数無安打ながら四球で一度出塁。熊谷は5打数2安打2打点。途中出場の福島は2打数1安打1四球、木浪は代打で適時二塁打。前川は3打数無安打に終わったが、チーム全体では14安打12得点。上位打線だけでなく、下位、代打、途中出場の選手までが攻撃に参加した。
特に9回の6点は、相手の反撃意欲を完全に断つ猛攻だった。黒原、鈴木健矢の継投に対し、福島の四球、髙寺の安打、森下の2点二塁打、佐藤輝の適時二塁打、大山の死球、木浪の適時二塁打、熊谷の2点打と、次々に走者を出して返した。単発のホームランだけではなく、四球、安打、長打、代打起用が絡み合った攻撃。森下が試合後に話した「どこから始まっても点を取れる攻撃」という理想を、まさにグラウンド上で形にした9回だった。
髙橋遥人、粘投で開幕10連勝 藤川監督は快勝にも課題を忘れず
大勝の陰で、先発・髙橋遥人の粘りも見逃せない。6回を投げ、97球、打者26人、8安打、1本塁打、6奪三振、無四球、3失点。初回に大盛の三塁打から菊池の犠飛で1点を失い、2回には佐々木に同点ソロを浴びた。4回には小園の左前打、ボーク、石原の中前適時打で勝ち越しを許した。決して楽な内容ではなかった。むしろ、序盤から広島打線に12安打のうち8安打を許し、苦しみながらのマウンドだった。
それでも、髙橋は試合を壊さなかった。四球を一つも出さず、余計な走者をためなかったことが大きい。3回には矢野、岡本を連続三振。6回も石原に安打を許しながら矢野を見逃し三振に仕留め、同点のままマウンドを降りた。その直後の7回表、福島の右前打から勝ち越し劇が始まり、髙橋に勝利投手の権利が転がり込んだ。開幕から無傷の10連勝。球団では2リーグ制以降初、1947年の御園生崇男以来79年ぶりという快挙であり、自身初の2桁勝利でもあった。
藤川球児監督は、髙橋の10連勝について勝負の運が向いたことをチームとして喜びつつ、一方で試合展開には厳しい目も向けた。2点を先制しながら追いつかれ、さらに勝ち越された展開について、取っては取られる流れをチームの課題として捉えている。12-3というスコアだけを見れば完勝だが、指揮官の視線は浮かれていない。中盤までの接戦、4回の逸機、その裏の失点。大勝の中にも修正点を見いだすところに、長いペナントレースを戦うチームの緊張感がある。
救援陣も役割を果たした。7回の工藤は1安打を許しながら無失点。8回の岩崎は三者凡退で流れを渡さず、9回は木下里都が締めた。木下は先頭の石原に代わった前川誠太を見逃し三振、代打・佐藤啓介に遊撃内野安打、名原に中前打、大盛に遊撃内野安打を許して2死満塁のピンチを背負ったが、最後は持丸泰輝を一ゴロに仕留めて試合終了。9点差があったとはいえ、最後まで無失点で終えたことも大きい。広島打線に12安打を許しながら3点で止めたのは、投手陣が要所を締めた証しでもある。
広島側を見れば、大盛は中三塁打、投犠打、空振り三振、右前打、遊撃内野安打で3安打。名原も中前打を含む2安打、佐々木は2回に3号ソロ、石原も2安打1打点と粘った。だが、阪神はそれを上回る破壊力を見せた。初回に森下の2ラン、6回に佐藤輝の同点ソロ、7回に中野の決勝2点三塁打と森下の適時打、9回に一挙6点。得点の取り方にバリエーションがあった。ホームランだけではなく、つないで、走者をためて、長打で返す。大量得点の中身が濃かった。
この勝利で阪神は連敗を2で止め、週明けへ弾みをつけた。だが、単なる連敗ストップ以上の意味がある。森下がプロ初5打点で打線の中心を証明し、中野が30歳の誕生日に決勝打を放ち、佐藤輝が久々の一発で主砲の存在感を示した。福島、木浪、熊谷も得点に絡み、髙寺も2安打でチャンスメークした。主力だけではなく、チーム全体で勝ち切った試合だった。
14安打12得点。終盤だけで9得点。敵地で一度は流れを失いかけながら、力で奪い返した快勝である。藤川阪神にとって、この一戦は打線爆発の景気づけであると同時に、勝っても課題を忘れないための材料にもなった。長いシーズンの中で、大勝の次こそ真価が問われる。それでも、この日のマツダスタジアムで猛虎打線が見せた集中力と破壊力は、間違いなく今後への大きな追い風になる。

https://shorturl.fm/NzxHg