阪神タイガースに、また新たなスター候補が現れた。
背番号9、立石正広。山口県出身、高川学園高から創価大を経て、2025年ドラフト1位で阪神に入団した右投げ右打ちの内野手である。公式プロフィールでは身長180センチ、体重87キロ。堂々とした体格と、打席での落ち着き。そして、ルーキーらしからぬ勝負強さ。1軍の舞台に上がってから、わずか5試合。その短い時間で、立石は虎党の視線を一気に集める存在となった。
衝撃的だったのは、数字だけではない。もちろん、5試合で22打数9安打、打率.409、1本塁打、5打点という成績は驚異的だ。公式成績にも、5試合連続安打、3試合連続複数安打、プロ初打点、初猛打賞、初決勝打、初本塁打という濃密すぎる足跡が並ぶ。
しかし、それ以上に強く印象に残るのは、立石がチームの流れそのものを変えたように見えたことだ。19日に1軍昇格を果たしてから、阪神は5連勝。偶然のラッキーボーイというより、実力で試合を動かし、打線に火をつけ、ベンチの空気まで明るくした存在だった。スポーツ紙各紙が「黄金ルーキー」「スーパールーキー」と表現したくなるのも当然だった。
始まりは5月19日、倉敷での中日戦だった。立石は「6番・左翼」でプロ初スタメン。大学時代まで主に内野手として歩んできた選手にとって、外野での1軍デビューは簡単なことではない。それでも、初めての1軍シートノック、初めての1軍公式戦という緊張感の中で、最初の打席から結果を出した。第1打席に中前打。プロの世界で最初に刻んだ一打は、立石という名前を虎党に知らせる合図になった。
翌20日の中日戦でも安打を放ち、デビューから2試合連続安打。まだこの時点では「いいスタートを切った新人」という見方もできたかもしれない。だが、立石の本当の衝撃は、伝統の一戦で一気に加速する。
東京ドームで見せた勝負強さ――初猛打賞、初打点、初決勝打
5月22日、東京ドームでの巨人戦。立石はプロ入り後初めて「1番・左翼」で先発した。本人にとっても、アマチュア時代からほとんど記憶にないというトップバッター起用。だが、ここでも気後れは見せなかった。初回、追い込まれながらも粘り、左越え二塁打。これがプロ初長打となり、いきなり先制ムードをつくった。三回にも中前打、四回には左前適時打を放ち、プロ初打点も記録。3打席連続安打で、プロ初の猛打賞まで達成した。
この日の立石は、ただ打っただけではなかった。初めての巨人戦、初めての東京ドーム、初めての1番打者。普通なら、いくつもの「初」がプレッシャーになってもおかしくない。だが、立石はその状況を楽しむように振った。本人は取材に対し「プレッシャーを気にしていたらもったいない」という趣旨の言葉を残している。舞台の大きさに飲まれるのではなく、大きな舞台だからこそ自分のスイングをする。その姿勢が、プロ3試合目にして猛打賞という結果につながった。
さらに、この試合では打線全体も活性化した。初回の二塁打が口火となり、阪神は序盤から得点を重ねた。立石が出塁し、中軸がかえす。1番に入ったルーキーが打線の入口となり、チーム全体の攻撃に勢いを与える。単なる新人の活躍ではなく、打線の形そのものを変えるような存在感だった。
翌23日の巨人戦では、立石の価値がさらに別の形で示された。派手な猛打賞の翌日、相手も当然警戒を強める。巨人先発のウィットリーに対し、阪神打線は序盤、なかなか突破口を見いだせなかった。そんな中、三回2死走者なしで立石が打席に立つ。ファウルで粘り、タイミングを合わせ、変化球を左前へ運んだ。これでデビューから4試合連続安打。2016年の高山俊らに並ぶ球団新人記録に到達した。
だが、この日のハイライトは五回だった。0-0の緊迫した展開。2死二、三塁の好機で、立石に打席が回る。ここで凡退すれば、試合の流れは相手に傾きかねない。ルーキーには重すぎる場面にも見えた。ところが、立石は追い込まれてから外角の速球に対応し、中堅右へ痛烈な打球を放つ。2者が生還し、これが先制点となった。結果的に阪神は3-0で勝利。立石の一打はプロ初の決勝打となった。
この場面で際立ったのは、力任せではない打撃だった。速い真っすぐに対し、無理に引っ張るのではなく、コンパクトに振り抜いてセンター方向へ強く返す。球種やコースへの対応力、追い込まれてからの冷静さ、そして勝負どころでスイングできる胆力。藤川球児監督も、その打ち方について驚きを交えながら評価していた。
この4戦目までで、立石は「よく打つ新人」から「勝利を呼ぶ新人」へと印象を変えた。デビューからチームは4連勝。試合前の円陣では、連勝中は声出し役を変えないという流れもあり、立石が声出しを続けた。本人は照れながらも、その役割を受け止めていた。打席では結果を出し、ベンチでは空気をつくる。まだ22歳の新人が、チームの中心に自然と巻き込まれていく様子は、いかにも阪神らしい熱量を帯びていた。
プロ初本塁打で球団新人記録更新――スター誕生を告げた一発
そして迎えた5月24日。東京ドームでの巨人戦。立石はこの日、「1番・三塁」で先発した。ここまで左翼での出場が続いていたが、本職の内野でも起用される形となった。デビューから4試合連続安打中。試合前の見どころとして、5試合連続安打となれば2リーグ制以降の阪神新人記録を更新する可能性が喧伝された。
その期待に、立石は最高の形で応えた。五回2死一塁。相手は同じドラフト1位左腕の竹丸和幸。いわば「ドラ1対決」だった。外角の直球を捉えた打球は、右中間スタンドへ飛び込むプロ初本塁打。飛距離118メートル、打球角度28度、打球速度164.5キロ。打った瞬間の手応えを感じさせる、力強い一発だった。
この本塁打で、立石はデビューから5試合連続安打を達成。球団新人記録を塗り替えた。しかも、それがプロ初本塁打であり、巨人戦であり、東京ドームであり、同じドラフト1位投手から放った一発だったという点が、物語性をさらに強めた。記録と記憶が同時に刻まれる。スター候補が本物のスターへ近づく瞬間には、こうした象徴的な場面がつきものだ。
マスコミ各社はこの一発について、立石が「大学までのステージとはまた違ったいい瞬間」と語ったことを伝えている。さらに、記念球を両親に渡したいという思いにも触れていた。プロ初本塁打の喜びを、自分だけのものにせず、支えてくれた家族へ届けたいという言葉には、立石の人柄もにじむ。
この日の立石は、本塁打だけでは終わらなかった。七回にも中前打で出塁し、佐藤輝明の右前打で二塁から本塁へ突入。ヘッドスライディングで生還し、チームに追加点をもたらした。巨人3連戦だけで7安打、1本塁打、5打点。伝統の一戦で、これほど鮮やかに名刺代わりの活躍を見せた新人はそう多くない。
5試合の内訳を振り返ると、その濃密さがよく分かる。19日の中日戦でプロ初安打。20日も安打。22日の巨人戦で初1番、初長打、初打点、初猛打賞。23日は4試合連続安打と初決勝打。24日は5試合連続安打の球団新人記録、そしてプロ初本塁打。公式の試合別成績でも、5試合すべてで安打を記録し、巨人3連戦では3安打、2安打、2安打と打ち続けたことが確認できる。
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5試合で見せたスターの片鱗―黄金ルーキーの物語は始まったばかり
これほどのスタートを切れば、周囲の期待は一気に膨らむ。だが、立石の魅力は、浮ついた様子を見せないところにもある。4戦連続安打を記録した後も、相手に研究されてからが本当の勝負だという趣旨の冷静なコメントを残していた。打てている現状を受け止めながらも、プロの世界がこの先、簡単ではないことを理解している。
新人がいきなり活躍すると、どうしても「勢い」や「運」という言葉で語られがちだ。しかし、立石の5試合を見る限り、その中身は単なる勢いではない。初球から振れる積極性がある。追い込まれてから粘れる対応力がある。速球にも変化球にも崩されすぎない。長打も打てるし、状況に応じた中前打、左前打もある。走塁でも次の塁、本塁を狙う意識がある。これらがそろっているからこそ、打順や守備位置が変わっても結果を出せた。
特に印象的なのは、逆方向への強さだ。プロ初本塁打は右翼席への一発だった。右打者が外角の球を強く叩き、右中間へ運ぶ。これは、単にパワーがあるだけでは難しい。バットの軌道、タイミング、下半身の粘り、そして打席内でのイメージが合わなければ、あの打球にはならない。巨人の投手陣に対して3試合続けて結果を出したことは、立石の打撃が初見の勢いだけではないことを示している。
阪神にとっても、立石の台頭は大きい。チームは開幕から上位を争う中で、さらに打線に新しい刺激を得た。1番に入れば出塁と長打で流れをつくり、下位や中軸寄りで起用されても得点圏で勝負強さを発揮する。左翼、三塁と複数ポジションで起用できる点も、長いシーズンでは大きな武器になる。藤川監督にとっても、起用の幅を広げる存在になりつつある。
もちろん、プロの世界はここからが本番だ。各球団の分析は進み、配球も厳しくなる。初対戦では甘く見られた球も、次第に弱点を探る攻めに変わる。速球で押すのか、外角変化球で崩すのか、内角を突いて踏み込ませないのか。相手バッテリーは必ず立石対策を講じてくる。その中で、5試合の輝きを一過性で終わらせないためには、修正力と継続力が問われる。
だが、少なくともこの5試合で、立石正広は「期待の新人」という枠を超えた。虎党に名前を覚えさせただけでなく、相手チームにも警戒すべき打者として認識させた。チームメートには勢いを与え、ベンチには笑顔をもたらし、スタンドには新しい楽しみを生んだ。
阪神のドラフト1位として背負うものは軽くない。球団の歴史、虎キチの期待、伝統の一戦で浴びる大歓声。そのすべてを、立石はわずか5試合で一身に受けた。そして、その重さに押しつぶされるどころか、自分のスイングで応えてみせた。
プロ初安打から、初猛打賞、初決勝打、初本塁打へ。わずか5試合の物語としては、あまりにも出来すぎている。だが、立石の表情には、これで満足した雰囲気はない。この一本で終わらず、どんどん増やしていきたい。そんな思いを胸に、黄金ルーキーは次の打席へ向かう。
阪神タイガースの2026年シーズンに、立石正広という新しい熱狂が加わった。たった5試合。されど、あまりにも濃い5試合。虎の背番号9が見せたスター選手の片鱗は、これから長く続く物語の序章にすぎない。
