また一発、そしてまた一発。首位を争う巨人との東京ドーム3連戦を、阪神が豪快に締めくくった。
13日の巨人戦は3-2。3回まで2点を先行されながら、4回に佐藤輝明が27号ソロ、6回に坂本誠志郎が6号逆転2ラン。得点はすべて本塁打だった。ここぞという場面でスタンドまで運び、必要な3点を奪い切った。
この3連戦を振り返れば、首位の座はより揺るぎないものとなる。猛虎打線の破壊力は際立つ。11日は近本光司の2号、森下翔太の26、27号、佐藤の24号と4本塁打を放って9-1。12日も森下の28号と佐藤の25、26号の3発で5-1。そして13日は佐藤と坂本の2発。3試合で計9本塁打をたたき込み、巨人投手陣をのみ込んだ。佐藤は11日の24号、12日の25、26号、そして13日の27号と3試合連続アーチ。首位攻防の3試合すべてで本塁打を記録した。
この日も序盤から簡単な展開ではなかった。初回、近本が三邪飛、中野拓夢が三ゴロで2死。森下が死球を受けたものの、佐藤は空振り三振。2回は大山悠輔が空振り三振の後、前川右京が中前打で出塁したが、坂本、元山飛優が連続三振に倒れた。3回も下村海翔が空振り三振、近本が四球で歩きながら、中野が空振り三振、森下が右飛。巨人先発・西舘勇陽を捉えきれなかった。
逆に3回裏、先発の下村が石塚裕惺を四球で歩かせ、中山礼都に左中間への2ランを浴びた。0-2。巨人側に流れが傾きかけた。
その空気を、4番が一振りで変えた。
4回先頭の佐藤。西舘の投じた2球目を捉えると、打球はスタンド中段へ飛び込んだ。3試合連続となる27号ソロ。前日には通算150本塁打を達成したばかり。それでも勢いは途切れなかった。今岡真訪氏はこの3連戦を振り返り、森下、佐藤について、内角を突けば抑えられるという段階ではなくなったと指摘している。1番から5番までを固定できる阪神打線の中で、それぞれが好不調だけに左右されず、チームへの貢献を意識することで「線」になっているとの見方だ。
佐藤の一発で1-2。その後、大山が四球、前川が右前打を放って無死一、二塁と一気に畳みかけた。ただ、ここでは坂本が送りバントに失敗。一塁アウトの判定に阪神がリクエストしたものの判定は変わらず、併殺となった。続く元山は敬遠、下村は見逃し三振。絶好の同点機を逃した。
普通なら、あの失敗を引きずってもおかしくない。だが、坂本にはもう一度、取り返す打席が巡ってきた。
6回。大山が中飛に倒れた後、前川が四球を選んで1死一塁。打席には坂本。カウント2-2から西舘の変化球を振り抜くと、打球は左翼席へ消えた。6号2ラン。1-2が、一瞬で3-2に変わった。4回のバント失敗を、自らのバットで帳消しにした。試合後、坂本は野球はミスを取り返すことのできる競技だという趣旨で振り返り、「何とかしたい」という気持ちで次の打席に入っていたことを明かしている。本人の感覚では、打った瞬間から本塁打を確信したわけではなく、打球がフェンスを越えることを願い、気付けばスタンドに入っていた一発だった。
値千金とは、まさにこの一打だった。
坂本の逆転2ランが下村の初白星を生む
坂本の一発には、単なる「逆転弾」以上の意味があった。
4回、無死一、二塁。送りバントを試みながら併殺となり、攻撃の流れを止めた。その時点で阪神は1点を追う展開。佐藤の一発から大山の四球、前川の安打とつながっただけに、悔しさが残るプレーだった。それでも6回の第3打席では同じように前川を一塁に置き、今度は打って試合をひっくり返した。坂本はこの日5打数1安打。その唯一の安打が、勝敗を決める2点本塁打だった。
その瞬間を誰より喜んだのが、ベンチに下がっていた下村だった。
5回を投げ終え、すでに交代を告げられていた。本人によれば、ベンチで試合を見ながら「あそこで逆転してくれるとは」と思うほどの場面だったという。坂本の打球がスタンドへ届くと、思わず跳びはねるように喜んだ。つい数分前まで敗戦投手の可能性があった右腕に、突然プロ初勝利の権利が転がり込んできた。
坂本にとっても、下村の白星は特別だった。試合後には、初勝利は下村にとって大きな節目になるとの思いを語り、これを新たなスタートにしてほしいと期待した。自分のため、チームのためにこれからも腕を振ってほしい――女房役らしい言葉だった。
逆転後も阪神には追加点の機会があった。6回は元山が四球を選び、西舘をマウンドから引きずり降ろす。代打ガルシアは空振り三振だったが、近本が左前打で一、二塁。しかし中野が三ゴロに倒れた。7回は森下の四球、大山の四球で一、二塁まで進めたものの、前川が見逃し三振、坂本が遊飛。8回は近本が左前打、9回には森下が左前打を放ち、髙寺望夢も敬遠で歩いたが追加点には至らなかった。阪神はこの日7安打を放ち、8四球と1死球を得ながら、得点は2本の本塁打による3点だけだった。
一見すれば「あと一本」が出なかった試合でもある。ただ、四球を積み重ねて相手に球数を投げさせ、毎回のように走者を出したことも事実だ。黒田正宏氏は、8四球1死球という数字に阪神打線の気迫と集中力を見て、3-2というスコア以上の力の差を感じさせる内容だったとの見方を示している。
藤川球児監督も、この東京ドーム3連戦について「取らなければいけないところはきちっと取れた」と総括した。同率首位で乗り込んだ敵地で3連勝。文字通りの完勝だ。ただし指揮官はそこで立ち止まらず、すぐ翌日の広島戦へ視線を移した。
3日間の猛虎打線を象徴したのが佐藤、森下なら、この日の勝利を決めた一振りは間違いなく坂本だった。
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下村、5回94球2失点でついに初勝利「5度目の正直」
その坂本の一発によって、下村海翔のプロ野球人生に待望の「1勝」が刻まれた。
2023年ドラフト1位で青学大から入団。だがルーキーイヤーの2024年4月に右肘のトミー・ジョン手術を受けた。期待されたドラフト1位右腕は、1軍どころか実戦マウンドからも長く離れることになった。2026年5月に実戦復帰し、7月2日の中日戦で1軍初登板。そして5度目の先発となった8月13日、東京ドームの巨人戦で、ようやく白星にたどり着いた。
内容は決して楽なものではなかった。
初回は浦田俊輔を空振り三振、松本剛を三ゴロ、泉口友汰を中飛。わずか3人で片付けた。2回もダルベックを三ゴロ、大城卓三を9球粘られながら空振り三振、キャベッジを一ゴロ。2イニングを6人で終える好スタートだった。
しかし3回、先頭の石塚に四球を与え、中山に先制2ラン。続く西舘を3球見逃し三振、浦田を二ゴロ、松本を左飛に打ち取り、傷口は広げなかった。
最大の山場は4回だった。
泉口に右翼への二塁打を許し、無死二塁。ダルベックを見逃し三振に仕留めたものの、大城に中前打を浴びて1死一、三塁となった。ここでキャベッジをワンバウンドする球で空振り三振。さらに石塚の痛烈な打球には下村自身が反応し、投直としてつかんだ。追加点を許さない。5回も2死から浦田に右前打を許し、盗塁で二塁へ進まれたが、松本を投ゴロ。5回94球、打者20人、4安打、6奪三振、1四球、2失点。崩れそうなところで踏ん張った。
今岡氏が下村を評した言葉も、その投球をよく表している。球威だけで圧倒するのではなく、制球と球のキレを武器に粘り強く投げるタイプ。その下村に、村上頌樹、高橋遥人に続く巨人3連戦3戦目で勝ち星が付いたことを大きく評価した。
一方、藤川監督は下村の初勝利に浮かれてはいない。2年間実戦で投げられなかったことで、現状の投球にはまだ修正すべき部分があるとした上で、手術を経た右肘を「新人の肘」と表現。「ゆっくりと急いで伸びていってほしい」と今後の成長を求めた。復活したことがゴールではない。ここから「勝てる投手」になっていくことを期待している。
6回以降は救援陣も下村の白星を守った。木下里都が6回、泉口を二ゴロ、ダルベックと大城を連続空振り三振。7回もキャベッジを空振り三振、石塚を右飛。中山に四球を許したが、代打・丸佳浩を空振り三振に仕留め、2回を無安打無失点、4奪三振。8回の岩崎優は浦田に中前打を浴び、松本の犠打と泉口への死球で1死一、二塁とされたが、ダルベックを5-4-3の併殺に仕留めた。9回は工藤泰成。大城を右飛、キャベッジを空振り三振、最後は石塚を見逃し三振。10球で三者凡退に封じ、今季2セーブ目を挙げた。
下村から木下、岩崎、工藤へ。4人で巨人打線を5安打2得点に封じた。
そして試合後、初勝利の喜びは涙へ変わった。
「僕より心配していたと思う」下村の涙
ヒーローインタビュー。下村は最初こそ笑顔だった。
「1軍で勝つこと」を目標にリハビリを続けてきただけに、初勝利を率直に喜んだ。先制点を与えたことを反省しながらも、その後のピンチで粘れたことには手応えを示した。そして話題が、この日関西から東京ドームへ駆けつけていた両親に移った時だった。
言葉が止まった。
入団直後に手術を受け、長いリハビリ生活を送った2年間。家に帰っても両親はあえて野球の話をせず、ずっと見守ってくれたという。「たぶん僕よりも心配してたと思う」。そう振り返ると、下村の目から大粒の涙がこぼれた。時間はかかった。それでも、両親がスタンドで見守る伝統の一戦で、ようやく届けることができたプロ1勝目だった。
ドラフト1位で入団した選手にとって、「3年目で初勝利」という結果だけを切り取れば遅く見えるかもしれない。しかし下村には、その間に投げられなかった明確な理由がある。手術を受け、リハビリを積み重ね、2026年になってようやく実戦へ戻った。本人も球団、病院の医師、トレーナーら、自分を支えた人たちへの感謝を口にした。
そして、その復活勝利を演出したのが、この3日間で巨人を圧倒してきた打線だった。
11日は9-1。12日は5-1。そして13日は3-2。大量得点、一発攻勢、1点差の接戦と異なる形で3試合すべてを取った。13日の勝利で阪神は4連勝。3カードぶりとなる同一カード3連勝を完成させ、58勝44敗1分、貯金は今季最多の14。2位巨人との差を3ゲームへ広げた。
評論家の今岡氏は、この3連戦を阪神が「力」でねじ伏せたものと評価した。巨人にとっては3戦目だけでも取っていれば今後の展開は違ったはずだが、その1勝すら許さなかった。中軸だけではない。固定された上位打線が役割を果たし、先発が試合を作り、救援陣が逃げ切る。13日は佐藤の一発で追い上げ、坂本の一発で逆転し、4投手で1点差を守った。阪神の現在地を凝縮したような勝利だった。
もちろん、課題がなかったわけではない。7安打に加えて9つの四死球を得ながら3得点。得点圏で追加点を奪えず、最後まで1点差のままだった。初回には森下が死球を受ける場面もあり、藤川監督がベンチを出る場面もあった。森下自身は今季の巨人戦で死球が多いことを認識しながらも、試合後は「切り替えてできた」と振り返った。この日は死球と四球で2度出塁し、9回には左前打。3打数1安打だった。
それでも勝った。
4回のバント失敗を6回の本塁打で取り返した坂本。3戦連発でチームを追撃態勢へ導いた佐藤。2年間の空白を越え、5回2失点で初勝利をつかんだ下村。そして6回以降をゼロでつないだ木下、岩崎、工藤。
「取るべきところ」を3つすべて取った首位決戦だった。
11、12日の2日間で7本塁打を浴びせ、最終戦でも佐藤、坂本が2発。3日間9本塁打の猛虎花火で宿敵を3タテした。その最後に待っていたのは、派手なガッツポーズではなく、24歳右腕の涙だった。
藤川監督はすでに次を見ている。
下村海翔にとっては、2026年8月13日は二度と戻ってこない特別な一日になった。
東京ドーム。巨人戦。5回94球2失点。
そして、プロ初勝利。
長かった右腕の野球人生が、ここから動き始める。
