主砲のひと振りで嫌な空気を払拭し、一気に試合をひっくり返した。
7月19日、マツダスタジアムで行われた広島―阪神15回戦。阪神は序盤に2点を先行されながら、四回に立石正広の適時打、七回に坂本誠志郎の同点本塁打、八回に佐藤輝明の決勝2点適時二塁打を放ち、4―2で逆転勝ちした。
阪神7安打、広島6安打。数字だけを見れば、両軍に大きな差はない。明暗を分けたのは、先発投手が苦しい場面で踏みとどまれるか、そして終盤に訪れた少ない好機を得点へ変えられるかだった。
試合開始前から、この一戦を取り巻く空気は穏やかなものではなかった。カードを通じて死球が重なり、この試合でも八回に大山悠輔が死球を受け、警告試合となった。両軍に冷静さが求められる張り詰めた状況の中、阪神はプレーで勝負を決めた。
先に主導権を握ったのは広島だった。
阪神先発・村上頌樹は初回、二死から秋山翔吾の遊ゴロを熊谷敬宥がファンブルし、走者を背負った。それでも坂倉将吾を空振り三振。失策を失点へつなげず、立ち上がりを無失点で切り抜けた。
だが二回、一死走者なしからファビアンに左翼席への11号ソロを浴びる。さらに続くモンテロにも、1ボール2ストライクから左翼席へ7号ソロを運ばれた。
2者連続本塁打。広島が瞬く間に2点を奪った。
村上はその後、持丸泰輝に四球を与え、森翔平の犠打で二死二塁とされた。それでも名原典彦を右飛に打ち取り、失点は2点で止めた。
ここで崩れなかったことが大きかった。
阪神打線は広島先発・森をすぐには捉えられない。初回は二死から森下翔太が四球を選び、暴投で二塁へ進んだが、佐藤輝が一ゴロ。二回には立石が中前打を放ったものの、坂本が空振り三振、熊谷が遊ゴロに倒れた。
三回は村上が一ゴロ、近本光司が中飛、中野拓夢が二ゴロ。森下の前に三者凡退となり、広島の2点リードが続いた。
阪神が反撃に転じたのは四回だった。
一死から佐藤輝が投手への内野安打で出塁。森の暴投で二塁へ進み、大山が四球を選んだ。一死一、二塁で打席に入った立石は、フルカウントから中前へ適時打。佐藤輝が生還し、1―2とした。
立石は二回の中前打に続く、この日2本目の安打だった。
なおも一死一、二塁。だが坂本は遊撃への併殺打に倒れ、同点には届かなかった。好機を逃した形にはなったが、阪神はようやく森から1点を奪い、試合を動かした。
その裏、村上は一死から小園海斗に中前打を許し、ファビアンを見逃し三振に取った後、モンテロに四球。一、二塁とされたが、持丸を二塁への併殺打に仕留めた。
五回は森を二ゴロ、名原と菊池涼介を連続空振り三振。三者凡退で流れを渡さない。
そして六回、村上はこの試合の踏ん張りどころを迎えた。
先頭の秋山に右前打を許し、坂倉の二ゴロで一死二塁。続く小園にも右前打を浴び、一、三塁となった。ファビアンの打席では暴投もあり、走者は二、三塁へ進む。
一打で点差が広がる場面だった。
しかし村上は、先制本塁打を浴びていたファビアンを空振り三振。続くモンテロも見逃し三振に仕留めた。
二回に2本塁打を浴びながら、その後は追加点を許さなかった。6回121球、打者25人に対して被安打5、奪三振6、与四球2、2失点。勝敗はつかなかったが、阪神が終盤の勝負へ持ち込めたのは、村上が試合を壊さなかったからにほかならない。
取り返した坂本、二死から流れを変える同点弾
一点を追う阪神は七回、広島の継投直後に試合を振り出しへ戻した。
広島は6回1失点の森から遠藤淳志へ交代。守備でも名原を中堅から右翼へ移し、大盛穂を中堅に入れた。
阪神は先頭の大山が一邪飛、立石が右飛。あっという間に二死走者なしとなった。
ここで坂本が打席に入った。
四回の一死一、二塁では遊撃への併殺打に倒れていた。だが、この打席では1ボール1ストライクから遠藤の一球を捉えた。打球は左翼スタンドへ到達。今季2号となる同点ソロで、阪神が2-2と追いついた。
走者を置かずとも、試合を一振りで動かすことはできる。四回に好機を止めた坂本が、七回には自らのバットで試合を振り出しへ戻した。
続く熊谷は右飛に倒れたが、阪神は終盤を前に同点へ追いついた。
坂本の仕事は本塁打だけではない。
先発の村上を2失点で踏みとどまらせ、七回以降も工藤泰成、岩崎優、ドリスと救援陣をリードした。広島打線に許した得点は、二回の2者連続ソロだけ。坂本は捕手として試合全体を支えながら、打者としても最も必要な場面で同点弾を放った。
同点となった直後の七回裏、阪神は村上から工藤へ継投した。
工藤は先頭の持丸を空振り三振。遠藤の代打・佐藤啓介を中飛に打ち取り、名原も空振り三振に仕留めた。
14球で三者凡退、2奪三振。坂本の本塁打で生まれた流れを、広島へ返さなかった。
この回を工藤が無失点で抑えたことで、阪神は同点のまま八回の攻撃を迎えた。結果的に工藤が勝利投手となり、今季2勝目を記録することになる。
打線が追いついた直後に投手が三者凡退。投手が抑えた直後に打線が勝ち越す。七回から八回にかけて、阪神の攻守がかみ合い始めた。
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二死無走者から逆転 佐藤輝が四番の一打
八回表、広島は遠藤からハーンへ継投した。
阪神は工藤の代打として福島圭音を送ったが投ゴロ。近本も二ゴロに倒れ、二死走者なしとなった。
このまま攻撃が終わっても不思議ではない場面だった。
だが中野が、二塁への内野安打で出塁した。
続く森下が左前打。一塁走者の中野は二塁を回って三塁を狙った。三塁セーフの判定に対して広島がリクエストを要求したが、リプレー検証後も判定は変わらない。
二死一、三塁。
打席には四番・佐藤輝が入った。
佐藤輝は初回、森下の四球と暴投で迎えた二死二塁の先制機では一ゴロ。四回には投手への内野安打で出塁し、立石の適時打でチーム最初の得点を記録した。六回は空振り三振に倒れている。
そして迎えた第4打席。ハーンに1ボール2ストライクと追い込まれた。
広島ベンチからコーチがマウンドへ向かった後の勝負。佐藤輝が放った打球は左翼線へ抜けた。
中野が生還。さらに一塁から森下も一気に本塁へかえり、4―2。佐藤輝の2点適時二塁打で、阪神がこの試合で初めてリードを奪った。
二死走者なしから、中野の内野安打、森下の左前打、佐藤輝の二塁打。三者がつなぎ、わずか3安打で2点を奪った。
佐藤輝は4打数2安打2打点。四回の反撃では走者として生還し、八回には自らのバットで決勝点をたたき出した。エキサイティングプレーヤーに選ばれたのも、この一打が試合の行方を決めたからだった。
ただし、逆転直後にも緊迫した場面が待っていた。
続く大山への投球が死球となった。
このカードでは死球を巡って緊張感が高まっており、大山への死球を受けて警告試合が宣告された。阪神は二死一、二塁と攻撃を続け、広島はハーンから鈴木健矢へ交代。立石は空振り三振に倒れ、追加点は入らなかった。
八回の阪神は2得点。勝ち越しには成功したものの、リードはまだ2点だった。
その裏、阪神は福島を左翼の守備に残し、岩崎をマウンドへ送った。
岩崎は菊池を左飛、大盛を右飛。坂倉を空振り三振に取り、12球で三者凡退に抑えた。
逆転直後の回を無失点で終えたことで、阪神は広島に反撃のきっかけを与えなかった。工藤に続き、岩崎も打者3人で役目を終えた。
最後の反撃を封じたドリス 粘り勝ちを完成させた投手リレー
九回表、広島は鈴木から辻大雅へ継投した。
阪神は坂本が遊ゴロ、熊谷が中飛。岩崎の代打・濱田太貴も空振り三振に倒れ、三者凡退。追加点を奪うことはできなかった。
4―2のまま迎えた九回裏。阪神は髙寺望夢を左翼へ入れ、ドリスをマウンドへ送った。
ドリスは先頭の小園を投ゴロに打ち取った。しかしファビアンに中前打を許し、モンテロには四球。一死一、二塁となった。
広島は一塁走者モンテロに代走・辰見鴻之介を送り、反撃を図る。阪神からもコーチがマウンドへ向かった。
一打が出れば1点差。長打なら同点もあり得る。最後まで安心できる展開ではなかった。
それでもドリスは持丸を空振り三振に仕留め、二死とする。
広島は辻に代えて佐々木泰を送った。最後の打者となった佐々木の打球は、詰まった三塁ゴロ。佐藤輝が処理して一塁へ送り、試合が終わった。
ドリスは1回20球、被安打1、与四球1、奪三振1で無失点。今季16セーブ目を挙げた。
七回の工藤は1回無安打2奪三振、八回の岩崎は1回無安打1奪三振。九回のドリスは走者を2人背負ったが、最後のアウトまで得点を許さなかった。
救援3投手が計3回を1安打無失点。序盤の2点を最後まで広島の得点欄に残したまま、試合を締めくくった。
阪神打線の得点は、四回の立石、七回の坂本、八回の佐藤輝。すべて別の打者が記録した。
立石は4打数2安打1打点。坂本は同点となる2号ソロ。佐藤輝は4打数2安打2打点。森下は安打と四球で2度出塁し、決勝点の走者となった。中野も八回二死から内野安打を放ち、逆転劇の口火を切った。
一方、近本は4打数無安打、大山は2打数無安打ながら四球と死球で2度出塁。熊谷は4打数無安打で、初回には失策を記録した。チーム全員に安打が出た試合ではない。それでも、それぞれの出塁や進塁が得点場面につながった。
広島は二回、ファビアンとモンテロの連続本塁打で2点を先制した。しかし三回以降は無得点。六回には一死二、三塁、九回には一死一、二塁と好機をつくったが、あと一本が出なかった。
阪神は先発・村上が2発を浴びながら6回2失点で踏ん張り、坂本の一発で追いつき、佐藤輝の一打で逆転した。最後は工藤、岩崎、ドリスがリードを守った。
観客3万2236人、試合時間3時間22分。
死球を巡る緊張が続き、警告試合となった一戦。阪神は感情的な応酬ではなく、終盤の集中打と投手リレーで決着をつけた。
村上が耐えた6回があり、坂本が追いついた七回があり、佐藤輝が決めた八回があり、救援陣が守り切った九回があった。
序盤の2点差を、四回に1点、七回に1点、八回に2点。一歩ずつ試合を引き寄せた阪神が、張り詰めた敵地で価値ある逆転勝利をつかんだ。
