4番が振れば、試合が動く。阪神は16日、マツダスタジアムで広島に8-1で快勝した。13安打を浴びせた猛虎打線の口火を切ったのは、佐藤輝明だった。
初回1死から中野拓夢が右前打で出塁。森下翔太が中飛に倒れて2死一塁となり、4番・佐藤輝が広島先発・森翔平と対峙した。カウント1-1。捉えた打球はセンターへ伸び、そのままスタンドへ飛び込んだ。今季28号となる2ラン。敵地の立ち上がりで、阪神が鮮やかに2点を先行した。
藤川球児監督は7月の前半戦総括で、佐藤輝をチームを背負う「大黒柱」と表現している。単なる「4番バッター」ではなく、チームの代表者として打線の中央に立つ存在。その評価を象徴するような先制弾だった。
ただ、この一発だけで試合が決まったわけではない。むしろ中盤までの展開は、8-1という最終スコアから受ける印象とは大きく違っていた。
阪神は2回、坂本誠志郎が四球を選んだものの、元山飛優が二ゴロ併殺打。3回は伊原陵人の左前打、森下の四球で2死一、二塁としたが、佐藤輝が見逃し三振に倒れた。4回は大山悠輔が右飛、前川右京が投ゴロ、坂本が右飛。5回には伊原がこの日2本目の左前打を放ったものの、近本光司が1-6-3の併殺打。6回も中野が左飛、森下が右飛、佐藤輝が空振り三振で三者凡退に終わった。
その間、広島は5回先頭のモンテロが1-2から左翼席へ10号ソロ。2-1と1点差まで迫った。
阪神にとっては、佐藤輝の一発で先行しながら追加点が遠い展開。それでも4番の2ランが生んだリードを投手陣が手放さなかったことが、終盤の猛攻につながった。
そして佐藤輝自身も、2打席連続三振のままでは終わらない。
8回、広島4番手・塹江敦哉に対する先頭打者として二塁打。大山の右飛で三塁まで進み、この回の2得点につなげた。9回の第5打席は1死一、二塁から二ゴロ。小園海斗の送球ミスが絡んで阪神に7点目が入った。
最終成績は5打数2安打2打点、3得点。28号2ランと二塁打の2長打だった。
一発だけを切り取れば豪快な主砲としての結果だが、先制点を生み、終盤には先頭打者として長打を放ち、3度ホームを踏んだ。藤川監督が託してきた「4番」という役割を、得点の起点としても果たした一戦だった。
坂本が七回適時打、八回2点二塁打で2安打3打点
先制したのが4番なら、勝負を決めたのは7番だった。坂本誠志郎が2安打3打点。しかも、その3打点はすべて阪神が欲しい場面で生まれた。
最大のポイントは2-1で迎えた7回だ。
先頭の大山が中前打。続く前川も右前打を放ち、一気に無死一、三塁とした。一塁走者の前川には代走・髙寺望夢。ここで坂本が打席に入った。
まだ1点差。広島にとっては併殺なら一気に流れを引き戻せる場面でもある。坂本はカウント2-2から中前へ運び、三塁走者の大山を生還させた。3-1。初回の佐藤輝の本塁打以来、阪神にとって実に6イニングぶりの得点だった。
広島はここで森から辻大雅へスイッチ。元山の送りバントは失敗し、1死一、二塁となったが、阪神ベンチは木下里都に代えて伏見寅威を送った。伏見は0-2と追い込まれながら中前適時打。4-1とした。伏見には代走・福島圭音。近本が満塁策で敬遠され、なお1死満塁まで攻め立てた。
中野、森下が連続三振に倒れたため、この回は2点で終了。それでも、1点差で始まったイニングを3点差に変えた意味は大きかった。
さらに8回。今度は坂本が試合を決定づける。
先頭の佐藤輝が二塁打。大山の右飛で三塁に進み、髙寺が四球を選んで1死一、三塁。ここで髙寺が初球から二盗を成功させ、二、三塁とした。
坂本は2-2から左翼へ2点適時二塁打。2人を迎え入れ、スコアは6-1。7回の中前適時打が「欲しかった追加点」なら、8回の一打は広島を大きく突き放す一撃だった。
坂本のこの日の打席を追えば、1打席目は四球、2打席目は右飛、3打席目が中前適時打、4打席目が左翼への2点適時二塁打、5打席目は捕邪飛。4打数2安打3打点、1四球だった。
派手な打撃ではない。それでも試合の温度が最も高かった時間帯で2度、走者を返した。
藤川監督は今季の捕手陣を振り返った際、坂本がWBCを経て視野を広げ、「いいもの」をチームへ持ち帰ったと評価している。伏見、梅野隆太郎を含めた捕手3人の存在が、チーム力を保つ要因になっているとも語った。
この日は、その坂本がバットだけではなくマスクをかぶっても勝利の中心にいた。
先発・伊原から木下、ドリス、岩崎優、及川雅貴まで5投手をリードし、広島打線を計3安打1得点。相手に許した得点はモンテロのソロ本塁打による1点だけだった。
打って3打点。守って1失点。
佐藤輝が豪快な2ランで試合の入り口をつくり、坂本が攻守両面でその勝利を完成形へ近づけた。8-1という大差の中でも、この日の坂本の価値は「2安打3打点」という数字以上に、打った場面の重さにあった。
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伊原、5回1失点で4勝目 自ら2安打、救援4投手も反撃許さず
終盤に打線が爆発できたのは、それまで投手陣が広島に流れを渡さなかったからだ。
先発・伊原は5回84球、打者18人に対して被安打2、4奪三振、1四球、1失点。今季4勝目を挙げた。
初回は小園を左飛、菊池涼介を遊ゴロ、ファビアンを投ゴロ。佐藤輝からもらった2点を背に、わずか3人で立ち上がった。
2回は2死からモンテロに四球を与え、佐々木泰の打席では暴投で二塁へ進めた。それでも佐々木を一飛に仕留めて無失点。
3回には2死から小園に左翼への三塁打を浴びた。一本出れば1点差という場面だったが、菊池をフルカウントから空振り三振。広島に追撃を許さなかった。
4回はファビアンを二飛、坂倉将吾を二直、秋山翔吾を投ゴロ。再び三者凡退。打線が初回以降得点できない中で、淡々とゼロを並べた。
5回、先頭・モンテロに左越えソロを許して2-1。しかし崩れなかった。佐々木を中飛、石原貴規を空振り三振、森を空振り三振。被弾直後の3人をきっちり退けて、リードを守ったまま救援陣へバトンを渡した。
さらに、この日は打席でも異例の働きだ。
3回先頭で左前へのポテンヒット。5回1死でも左前打。投手の伊原が2打数2安打を記録し、チーム13安打のうち2本を自ら放った。近本や森下、佐藤輝らが並ぶ打線の中で、9番投手がマルチ安打というのも大勝を象徴する一幕だった。
6回からは継投へ入った。
2番手・木下は小園を空振り三振、菊池を二ゴロ、ファビアンを空振り三振。1回18球、2奪三振の完全投球。
7回はドリス。坂倉を二ゴロ、秋山を遊ゴロ、モンテロを空振り三振。こちらも三者凡退だった。
8回には岩崎が登板。佐々木を二ゴロ、代打・佐藤啓介を三飛、代打・西川篤夢を空振り三振。3人で終わらせる。
9回は及川。代打・勝田成を投ゴロに仕留めた後、菊池に左前打。ファビアンの三塁への打球はフィルダースチョイスとなり1死一、二塁とされたが、坂倉を見逃し三振、最後は秋山を遊ゴロに仕留めた。
救援4投手で4回1安打無失点。木下、ドリス、岩崎はそれぞれ三者凡退だった。
藤川監督は前半戦の総括で、ドリスと岩崎について、キャリアを積んだ2人が「責任の大きい終盤」を担っていると説明している。同時に若い投手については、その経験を吸収しながら成長していくことを期待していた。
この日はまさにその層の厚さが出た。伊原が5回まで試合をつくり、木下、ドリス、岩崎、及川とつないでゼロを重ねる。先発一人に長いイニングを求めなくても、リードを保ったまま試合を終えられる継投だった。
打線が追加点を取れなかった2-1の6回も、すでに6-1となった8回も、投手陣の仕事は変わらない。広島に反撃のきっかけを与えなかったことが、終盤の猛攻をより大きなものにした。
13安打8得点に見えた阪神の総合力
8-1。数字だけを見れば圧勝だ。
しかし、この試合の本質は「最初から最後まで一方的に打ち続けた」ことではない。
6回終了時点では2-1。阪神の得点は初回の佐藤輝の2ランだけだった。広島先発・森に対して走者を出しながら決定打を欠き、5回にはモンテロの一発で1点差。広島にも十分に勝機が残っていた。
そこから阪神は7、8、9回に2点ずつを加えた。
7回は大山、前川の連打を起点に坂本の適時打。さらに代打・伏見の適時打。
8回は佐藤輝の二塁打、大山の進塁打となる右飛、髙寺の四球と盗塁を経て、坂本の2点適時二塁打。
9回は近本の左前打から中野の遊ゴロ、植田海の四球で一、二塁とし、佐藤輝の二ゴロの際に小園の送球ミスが出て7点目。続く大山が中前適時打を放って8-1とした。髙寺も左翼への二塁打を放ち、最後まで攻撃の手を緩めなかった。
得点の形も多彩だった。
佐藤輝の本塁打という「個」の力があり、大山、前川の連打があり、伏見の代打起用が的中し、髙寺には四球と盗塁があり、途中出場の植田も四球で得点機を広げた。9回には相手の失策も得点へ結びつけた。
途中出場となった選手たちも多彩な活躍を見せた。
前川に代わって走者となった髙寺は、その後守備に入り、四球、盗塁、二塁打。伏見は代打で1打席に立って適時打。福島はその伏見の代走を務め、植田は途中出場から四球を選んだ。ベンチの選手を動かしながら攻撃をつないだ点も、チームに活力を生んでくれた。
一方、広島の安打は小園の三塁打、モンテロの本塁打、菊池の左前打の3本だけ。阪神は守備でも失策ゼロだった。打って13安打、守って無失策、投げて3安打1失点。投打の数字がきれいにかみ合った。
勝利の中心にいたのは、やはり2人だ。
佐藤輝は初回に28号2ラン。5打数2安打2打点、3得点。試合が動く前に動かした。
坂本は7回に1点差を広げる適時打、8回にはリードを5点へ広げる2点適時二塁打。4打数2安打3打点。さらに捕手として5投手をリードした。
「佐藤輝が先制し、坂本が決める」。
この日の8-1を最も端的に表せば、そうなる。
そして、その間を伊原以下の投手陣がつなぎ、大山、前川、髙寺、伏見らが終盤の攻撃を膨らませた。
試合後の阪神は59勝46敗1分。2位・巨人とは2ゲーム差。首位の座を守った。
藤川監督は前半戦を振り返った際、後半戦で重要なのは「チームの輪」が乱れないことだと語り、球団初の連覇を目標として明言している。
この日の勝ち方には、その言葉と重なる部分がある。
4番が一発を放っただけではない。7番捕手が3打点。先発投手が2安打。代打が適時打を放ち、代走から入った選手が盗塁と長打を記録し、5人の投手で相手打線を3安打に封じた。
スターの一撃で先手を取り、脇を固める選手が試合を広げ、投手陣が最後まで逃げ切る。
2-1だった試合を、終盤3イニングで6点を加えて8-1へ。
佐藤輝の豪快な28号に始まり、坂本の勝負強い2本で突き放したマツダスタジアムの一夜。大差のスコア以上に際立ったのは、一つの勝ち筋だけに頼らない阪神の総合力だった。
