阪神が、我慢の先に会心の一撃を呼び込んだ。2026年7月12日、甲子園で行われたヤクルトとの12回戦。阪神は七回に佐藤輝明の18号2ラン、大山悠輔の12号ソロが連続して飛び出し、3-0で快勝した。チームは2連勝で2カード連続の勝ち越し。単独首位を守り、貯金を「8」とした。だが、スコアだけを見れば危なげない完封勝利でも、その中身は決して楽なものではなかった。阪神は5安打、ヤクルトは10安打。安打数では倍の差をつけられながら、一つの本塁も許さなかった。
先発の村上頌樹は初回からいきなり試練に直面した。1死から古賀優大に中前打、増田珠に左前打を許し、サンタナには四球。1死満塁の大ピンチを背負った。それでも赤羽由紘を見逃し三振、セデーニョを遊直に仕留めて無失点。二回も先頭の長岡秀樹に左前打を浴び、吉村貢司郎の犠打、岩田幸宏の二ゴロで2死三塁。さらに内山壮真を四球で歩かせて一、三塁とされたが、古賀を空振り三振に斬った。三回は増田の右前へのポテンヒットを起点に2死二塁とされたものの、セデーニョを空振り三振。四回も長岡の中前打、岩田の右前打と盗塁で得点圏に走者を置かれながら、内山を空振り三振に仕留めた。
五回はこの日初めての三者凡退。だが六回には1死からセデーニョにフェンス直撃の二塁打を浴びた。代走・山野辺翔を三塁まで進められ、再び一打先制の場面。それでも最後は投手の吉村を0-2から空振り三振に仕留めた。村上は6回104球、7安打、7奪三振、2四球、無失点。毎回のように走者を背負いながら、あと一本を許さなかった。
一方の阪神打線も吉村の前に苦しんだ。初回、復帰2戦目の近本光司が初球を中前へ運び、中野拓夢が犠打。1死二塁としたが、森下翔太は中飛。さらに佐藤輝の打席中に近本が二塁けん制でアウトとなり、好機は消えた。二回は佐藤輝が中飛、大山が見逃し三振、前川右京が一直。三回は坂本誠志郎が遊飛、熊谷敬宥が遊ゴロ、村上が空振り三振。四回も近本が遊ゴロ、中野が左飛、森下が右飛と、吉村に完全に封じ込まれた。五回には佐藤輝が高めのつり球に空振り三振、大山は右飛、前川は遊直。六回は熊谷が四球で出て、代打・元山飛優が送り、2死二塁まで進んだものの、近本の打球は遊直だった。
六回を終えて、阪神はわずか1安打。ヤクルトは7安打。それでもスコアは0-0だった。打線が打てない時間を、投手と守備が耐え抜く。相手に先行を許さなかったことが、終盤の一発で試合を動かす余地を残した。虎が勝利をつかんだ大きな前提は、この「ゼロ」を積み重ね続けた6イニングにあった。
サトテル127m弾 大山が172km/h追撃砲
均衡を破ったのは、やはり4番だった。七回表、2番手の工藤泰成が岩田を二ゴロ、内山を一ゴロ、古賀を空振り三振と三者凡退に封じる。その裏、先頭の中野が中前打。森下は低めの直球を中飛に倒れたが、1死一塁で佐藤輝が打席に入った。
カウント1-1。吉村が投じた146キロの高め直球を、佐藤輝は迷いなく振り抜いた。打球は高々と舞い上がり、バックスクリーン右へ一直線。飛距離127.4メートル。浜風の影響を受ける方向への大飛球は、そのままスタンドに届いた。18号先制2ラン。甲子園は一気に沸騰した。
ただ、この一打は単なる「力任せの豪快弾」ではない。二回の第1打席は高めの球を中飛。五回の第2打席では高めのつり球に空振り三振を喫していた。同じ高さのボールにやられた後、三度目は仕留めた。佐藤輝自身も試合後、「修正しながら、最後はいい打撃ができた」と振り返った。デイリースポーツ評論家の藤田平氏も、この決勝弾を「修正力のたまもの」と評価した。打てなかった球を、次の打席で打つ。しかも、0-0の終盤、一振りで試合を動かす。4番としてこれ以上ない仕事だった。
佐藤輝は前夜11日のヤクルト戦でも本塁打を放っており、これで今季初の2試合連続アーチ。3打数1安打2打点ながら、その1安打が試合を決める決勝弾になった。吉村に六回まで1安打に抑え込まれ、重苦しさが漂っていた打線を、4番が一振りで救った。
そして、興奮が冷める間もなく、5番・大山が続いた。1死走者なし。カウント1-1から、吉村の浮いたフォークをフルスイング。打球速度172キロの強烈な一撃は左中間席へ突き刺さった。12号ソロ。佐藤輝の2ランから連続本塁打で、一気に3-0。勝利を大きく引き寄せた。
大山にとっては6月23日のヤクルト戦以来、12試合、48打席ぶりの本塁打だった。二回の第1打席は見逃し三振、五回の第2打席は外角低めのカットボールを右飛。それでも第3打席で甘く入ったフォークを逃さなかった。「目の前で輝明が先取点を取ってくれたので、3点目を取りにいこうと」。その言葉通り、主砲が作った流れを、もう一人の主砲が途切れさせなかった。
大山は「すごくいい打ち方ができました」と手応えを口にした。前夜には左中間への大飛球をフェンス手前で好捕されていただけに、その悔しさも晴らす一発となった。佐藤輝と大山による連続本塁打は通算3度目。2人が同じ試合で本塁打を放つのは今季2度目だった。
この2本は質がまったく違った。佐藤輝は高めの速球をバックスクリーン右へ。大山は浮いたフォークを左中間へ。左の4番、右の5番が、それぞれの持ち味で別方向のスタンドを揺らした。六回まで1安打だった打線が、七回だけで4安打3得点。中野の中前打に始まり、佐藤輝と大山の連続アーチ、さらに坂本の左前打まで続いた。点が入るまで耐え、好機が来た瞬間に畳みかける。わずか一イニングで、試合の景色を完全に変えた。
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工藤に舞い込んだプロ初勝利 岩崎、ドリスで完封リレー
勝利投手の欄に刻まれたのは、工藤泰成の名前だった。0-0の七回、村上の後を受けて2番手で登板。先頭の岩田を二ゴロ、内山を一ゴロ、古賀を空振り三振。12球で三者凡退に封じた。その直後、佐藤輝と大山が連続本塁打。プロ通算45試合目の登板で、待望の初勝利が転がり込んだ。
前日の11日には、甲子園で球団最速タイとなる163キロを計測し、大きな注目を集めた。その翌日も、与えられた1イニングを無失点。派手な球速だけでなく、3人で攻撃を終わらせたことが何より大きかった。工藤は初勝利について「早いようで遅かった」と振り返り、七回裏に打線が得点した場面では、思わず喜んでしまったことも明かしている。
藤川球児監督も若い右腕の一歩を祝福した。ただし、手放しで持ち上げるだけではない。「まだまだ駆け出しですから」と、さらなる成長を求めたうえで、「でも、おめでたいですね。初勝利ですから」と喜んだ。前夜に163キロ、この日は初勝利。工藤にとって忘れられない2日間になった。
その初勝利を守ったのは、経験豊富な救援陣だった。八回は岩崎優。先頭の増田に中前打を許したが、サンタナを空振り三振、赤羽を中飛、山野辺を三ゴロに仕留めて無失点。1回15球、1安打、1奪三振だった。
九回はドリス。先頭の長岡に中前打、1死後に岩田にも左前打を浴び、一、二塁のピンチを背負った。それでも内山を空振り三振、最後は古賀も空振り三振。17球を投げ、2安打を許しながら2三振を奪って13セーブ目を挙げた。最後まで簡単な試合ではなかったが、最後まで本塁は踏ませなかった。
ヤクルトは増田が4打数3安打、長岡も4打数3安打。岩田は4打数2安打。計10安打を放った。それでも0点。阪神は村上が6回7安打無失点、工藤が1回完全、岩崎が1回1安打無失点、ドリスが1回2安打無失点。4投手による完封リレーを完成させた。今季13度目の無失点勝利だった。
村上に勝ちはつかなかった。それでも、この試合で最も長く苦しい時間を支えたのは先発右腕だ。初回1死満塁、二回2死一、三塁、三回2死二塁、四回2死二塁、六回2死三塁。何度も得点圏に走者を背負いながら、決定打を許さなかった。内容だけを見れば苦しい登板だった。それでも6回をゼロでつないだからこそ、工藤の三者凡退が生き、佐藤輝と大山の連続弾が決勝点になった。
この日の阪神は「誰か一人が全部やった試合」ではない。村上が耐え、工藤が流れを渡さず、佐藤輝が均衡を破り、大山が突き放し、岩崎とドリスが締めた。攻守の役割が一つずつつながって、3-0という結果になった。
しぶとく勝つ強さ チームに宿る「勝ち切る形」
数字だけを並べれば、異例の試合だった。阪神5安打、ヤクルト10安打。それでも終わってみれば3-0。阪神は失策ゼロで、ヤクルトが作った何度もの得点機を断ち切った。逆に打線は、七回に訪れた数少ない好機を、佐藤輝と大山の2発で一気に3点へ変えた。
佐藤輝の本塁打は「修正力のたまもの」と評価されている。五回の第2打席で高めのボール球に空振り三振。その失敗を引きずらず、七回には高めの146キロ直球を仕留めた。佐藤輝が夏場に本塁打を増やしていく可能性もクローズアップされた。単なる一発の大きさではなく、打席の中で失敗を修正し、次の打席で結果に変えた点に価値があった。
大山の一発もまた、打線の厚みを示した。佐藤輝が2点を先制した直後、さらに1点を加えた。大山自身は「輝明が素晴らしいホームランを打ってくれたので、気持ちを楽に打席に入れました」と振り返った。4番の仕事を5番が受け、5番の一発が投手陣をさらに楽にする。大山は工藤だけでなく、投手陣全体が粘り強く投げていることにも触れ、「何とか助けられるように」と語った。
その言葉は、この試合の構図そのものだった。六回までは投手陣が打線を助けた。七回は打線が投手陣を助けた。工藤が三者凡退で流れを作り、佐藤輝と大山が3点を奪い、岩崎とドリスが守り切る。それぞれの役割が一つにつながり、虎は勝利をつかんだ。
復帰2戦目の近本も初回、初球を中前へ運び2試合連続安打。4打数1安打に終わったが、藤田氏は打撃フォームの変化を評価している。中野は七回、決勝点の起点となる中前打。森下は3打数無安打だったが、その後ろに佐藤輝、大山が控える打線の中で、七回の流れは2番から始まった。
試合後のヒーローインタビューには、工藤、佐藤輝、大山の3人が並んだ。プロ初勝利の右腕と、試合を決めた4番、そして直後に追撃した5番。お立ち台の顔ぶれが、この日の勝利をそのまま表していた。
阪神はこれで2連勝。ヤクルトとのカードを2勝1敗で勝ち越し、2カード連続の勝ち越しを決めた。43勝35敗1分けで単独首位を維持。首位チームの勝ち方は、必ずしも派手な大量得点だけではない。打てないなら守る。苦しいなら耐える。そして、訪れた一度の好機を主軸が仕留める。
七回、佐藤輝の18号2ランが静寂を破り、大山の12号ソロが勝利を決定づけた。バックスクリーン右と左中間。左右に描かれた二つの放物線が、甲子園の夜空にタイガースの強さを刻み込んだ。5安打でも勝つ。10安打を浴びてもゼロで抑える。そんな一戦をものにできるところに、首位を走る阪神のしたたかさがあった。
