6月12日、ベルーナドームでの交流戦・阪神タイガース対埼玉西武ライオンズ戦。観戦した阪神ファンにとって、今カード“3連敗”という事実は重くのしかかった一方、背番号1・森下翔太外野手(24)が放った先制11号ソロは、鮮明に記憶される一撃となった。だが、その快音はかすかな鎮魂歌に変わった。勝利の流れを呼び込みつつ、自ら招いた守備ミスがその芽を摘んでしまったのだ。
試合は初回、2死無走者で迎えた森下の打席から動き出した。西武先発・菅井信也(21)の投じた147キロ直球を強振し、打球は左翼ポール際をかすりながら越えていく。堂々たる11号ソロ。本塁打は今季5試合で3本目、自身46打点目となり、佐藤輝明と並んで打点ランキング上位に食い込む結果となった。森下は「甘いボールを、自分のスイングで振り切れた。先制点が取れたのでよかったです」とクールにコメントしたが、その瞳には勝利への渇望が宿っていた。
しかし、その背後で幕は早くも動き出していた。直後の裏、ネビンに同点のタイムリーヒットを浴び、さらに2回には長谷川信哉に勝ち越しタイムリーを許して逆転を許す。初回こそ光った阪神打線だったが、以降は菅井の前に沈黙を強いられ、得点の動きを欠いたまま試合は進んだ。
森下自身、再びチャンスを迎えた。4回表、今度は出塁で次の回につなぐ役割を担った。その姿には、先制弾を打った男としての自覚と貪欲さが溢れていた。だが、その裏の守備でほころびが生じた。4回1死二塁、平沼翔太の前方フライに対し、グラブを高く掲げての“フェイク”送球に入った瞬間、人工芝特有のバウンドに翻弄され、痛恨の後逸――適時打と失策の記録が付けられてしまう。このプレーで追加点を許し、流れを完全に西武に譲ってしまったのは否めなかった。
一見“黙して語る”タイプでありながら、彼はインタビューで静かに目の奥の鋭さを滲ませた。「人工芝のグラウンドは難しかった。次はないように」と反省の言葉を口にしたが、その声には弱気はなく、むしろ芯の強さが感じられた。自身の評価を高めつつあるだけに、自らの“貢献と責任”を静かに受け止めていた。
このミスはチーム全体に重く響いた。阪神は、8回にも満塁の好機を迎えながら、佐藤輝明がけん制死。その後の大山悠輔の遊ゴロでこの日最大のチャンスを潰し、逆転の芽はついに実らなかった。試合はそのまま1-4で終了。阪神は同一カードでは今季2度目の3連敗。交流戦首位から陥落し、西武相手に屈辱の完敗を喫した。
後日、藤川球児監督(44)は試合の総括で「守りに、走塁にミスが相次げば、勝利が遠ざかるのも無理はない」と静かに語った。森下のプレーについても「いろいろ言っても一緒ですね」と、深追いせずチームとしての総括を強調。試合の敗因を選手個人に押しつけず、全体の仕組みとして捉えようとする姿勢は、いかにも球児監督らしい。
ただ、森下の評価も決して揺るがない。彼は3連敗中もファンの失望とは別次元で、淡々と取り組む力を見せていたのだ。試合後、森下は「切り替えて、明日勝って、またいい流れを持ってきたいと思います。個々がやるべきことは分かっていると思うので、あとはそれがつながるかつながらないかの差。やることは変わらずやっていきます」と語った。この言葉にこそ、彼の真価とリーダーとしての資質が滲み出ているように感じられる。
だが、若き主役には“乗り越えるハードル”が立ちはだかっている。ホームで放った一発も、守備で招いた失点とチーム敗北によって色褪せてしまったのは皮肉だ。プロの世界では、ヒーローも簡単に影にされてしまう。森下は、強力打線の要として打棒を示す一方で、守備・走塁での責任が問われる場面も同時に背負わされる。
交流戦は間もなく次節へ移る。阪神は翌13日から仙台で楽天3連戦を迎えるが、森下はこの“重圧”をどう昇華させるかが問われるだろう。すでに“打撃力”という武器を持つ彼にとって、完成度を高めるべきは守備・判断力による失点の防止だ。今回のベルーナドームでの反省は、人工芝への対応能力、フェイクプレーの見極め、そして集中力の持続といった多岐に渡る課題を浮き彫りにした。
交流戦はペナントの“試金石”でもある。相手のミスに凹み、自らのミスが直接失点に繋がる現実は、主役の森下にとって成長の糧となる。かつて球界を沸かせた大打者たちも、守備や細かな判断力の差で、賛辞と批判の行き来を経験してきた。その積み重ねが“本物”へと昇華させる。
失点シーンを自ら招いた悔しさと、先制弾を打った誇り。この表裏一体をどう昇華していくか。それこそが、今後の森下翔太の“真価”を問うものだ。交流戦はまだ序盤戦、この先に本当に彼が“チームを背負う存在”として羽ばたくのかどうか。今後の動向に注目が集まる。
この日、ベルーナドームで確かに湧き上がった歓声と、沈黙。森下のヒーローアーチは一瞬のきらめきだったかもしれない。しかし、彼が口にした「個々がやるべきことは分かっている」――この言葉が、チームの未来を照らす灯となることを、ファンは信じたい。そして、彼が再び強く印象を残す時、私たちはその瞬間に立ち会っているのだろう。今はまだ、その兆しが静かに胸に残っているだけだ。
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