3時間41分の熱戦、森下のサヨナラ2ランで決着!

3時間41分の熱戦、森下のサヨナラ2ランで決着!

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10月16日、甲子園の空は秋らしい冷気をまとい、外野席の旗が音を立てて揺れていた。観衆は42,647人。午後18:01にプレーボールのサイレンが鳴ると、スタンドの黄色い波がいっせいに立ち上がった。阪神は初回から主導権を握る。近本が四球で出て、1死二、三塁。ここで佐藤輝が先制の適時二塁打を右翼線へ運び、ベース上で右拳を握る。さらに大山も続いて適時打。スコアボードの「1回裏」に電光で「2」の光が踊る。甲子園は早くも沸点に達した。先手先手でシリーズを持っていく。そんな空気が、確かにあった。

ただ、相手も簡単には引き下がらない。3回表、DeNAが一気に反撃する。先頭から走者を出し、蝦名の適時二塁打でまずは1点。さらに2死二塁から佐野にも適時二塁打が飛び出し、たちまち同点。続く4回表には牧のソロがライトへ高々と上がってスタンドイン。阪神の先発・才木はボール自体の力はあるが、甘く入ったところを確実に捉えられた。スコアは2-3にひっくり返る。甲子園は一瞬、息を呑むような静けさに包まれたが、ベンチ前ではナインが気持ちを切らさず声を出し続けた。

それでも、このチームの守りは崩れない。4回途中からリズムを取り戻した才木は、150km台の直球と縦のスライダーを低めに集め、打球を詰まらせて外野の前で失速させる。何より大きかったのは内野の一体感だ。小幡が三遊間へ抜けようかというライナーに飛びつき、体を横たえたままグラブを強く握る“横っ飛びのスーパーキャッチ”。失点の芽を早いカウントで摘み取り、マウンドの才木が帽子に手をやって笑った。内外野の呼吸は、10月の短期決戦ならではの研ぎ澄まされた緊迫に満ちていた。

試合は中盤、投手戦の濃度を上げていく。阪神は才木の後を畠、湯浅、岩貞、石井と継いでいく“方程式の前段”で粘りのゼロ行進。DeNAは先発・竹田の後ろを中川、石田裕、伊勢、森原と厚みのある顔ぶれでしのぎ、一見すればスコア以上に重い時間が流れる。両軍ともにミスはなく、スコアボードの「E」は「0-0」のまま動かない。打者の一振り、走者の一歩、内野の一瞬の逡巡——そのどれか一つが勝負を決めるのだと、誰もが理解していた。

待望の同点は8回裏。再び打席に回った佐藤輝が、ここしかないという抜け球を引っ張り、二遊間を破る適時打。打った瞬間に右手を上げる佐藤、三塁コーチの腕は回り切っていて、三塁側スタンドから地鳴りのような歓声が落ちる。クライマックスシリーズという舞台が大柄な背番号「8」をより大きく見せる。これで3-3。ベンチではコーチ陣も笑顔で迎え、グラウンドの空気が一気に虎色に染まる。試合の流れを変える重要な一打だった。

 

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9回表、DeNAが主軸の前に走者を置く嫌な展開を作るが、及川が左打者の内角に食い込む速球と、ベース手前で鋭く消えるスライダーで粘投。ピンチを脱すると、その時点で甲子園の時計は22時台に差し掛かっていた。10回表も及川は続投し、芯を外す投球に徹してゼロ封。ベンチに戻ると、捕手の坂本と小さく頷き合う。やることは一つ。サヨナラで仕留めるだけだ。

10回裏、先頭の近本が四球で出塁。中野はバントの構えからカウントを整え、相手バッテリーに“送るのか、打つのか”の迷いを植え付ける。その一瞬の逡巡が、決定的な1球を生んだ。しっかり送って打席には森下。右方向へも長打を飛ばせる打者が、甘いゾーンに入ったスライダー系を逃さない。打球は左中間、レフトスタンドに吸い込まれていく放物線。白球がフェンスの向こうに着弾した瞬間、スコアボードの「10回裏」に「2x」が灯る。森下、両拳を高々と突き上げながら三塁を回り、ホームでは面々が大きな弧を描いて出迎えた。阪神5-3。サヨナラの主役は、若き大砲だった。

雨で1時間近くの中断を挟み長いゲームとなったものの、結果的にタイガースが2連勝をマーク。試合時間3時間41分。勝利投手は及川(2勝0敗)、敗戦投手は佐々木(0勝1敗)。阪神の本塁打は森下の10回2ラン。DeNAは牧の4回ソロが唯一のアーチとなった。投手リレーは阪神が才木-畠-湯浅-岩貞-石井-及川、DeNAは竹田-中川-石田裕-伊勢-森原-佐々木

象徴的な守備は、やはり小幡の横っ飛び。相手の流れを断ち切る値千金のプレーで、あの1球が抜けていれば展開は変わっていたかもしれない。短期決戦では、たった一つの守備の好プレーが1点、1勝、そしてシリーズそのものを手繰り寄せる。紙一重の戦いで、その“紙”をこちらにたぐり寄せたのは守りの質の高さだった。

攻撃では、初回に中軸が“らしさ”を見せ、終盤に佐藤輝が追いつき、最終盤は森下が決めた。序盤・中盤・終盤のそれぞれで主役が入れ替わり、役割が重なって勝利を形づくる。短期決戦の理想形だ。データで見ても、初回の先制はシリーズの勝率を押し上げる指標で、8回裏の同点打は球場中のボルテージを一気に引き上げた。そして10回裏、四球で出た近本の出塁が価値を帯び、中野の“見せてからの見極め”が相手バッテリーの配球バランスを崩し、森下の一閃へと導いた。すべてが一本の糸でつながっていた。

ベンチワークの妙も見逃せない。才木が苦しい局面でも“引っ張りすぎず、早すぎない”タイミングでスイッチ。岩貞や石井には特定の打者に対する明確な狙いがあり、その先の及川まで見越した配置で10回のサヨナラの土台を築いた。数字に表れない「間」の使い方——投手交代前後の数球で相手の勢いを剥がす工夫が、確かにグラウンドに存在していた。

初戦2-0で完封し、第2戦をサヨナラで奪って“3勝0敗”とした事実は、数字以上に相手の心を削る。DeNAは0勝3敗で崖っぷちに立たされ、日本シリーズへ進むには4連勝しか道がない状況に追い込まれた。阪神は、ここで一気に決めにいく。

甲子園の秋は、少しだけ夜露が早い。試合後、内外野の芝には白く煌めく光が散っていた。ヒーローインタビューで森下が笑った。観客は帰路につきながらも、口々に「今日は守りで勝ったな」「テルが同点、森下がサヨナラ、最高や」と話す声が聞こえてくる。こういう勝ち方をすると、チームは強くなる。投手陣の粘り、内野の一体感、そして中軸の決定力。短期決戦に必要な要素が揃っている。

次戦も“先手必勝・終盤勝負”の型をぶらさず、タイガースらしい野球で一気に日本シリーズ進出を勝ち取ってみせる。

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