首位を走る阪神が痛い黒星を喫した。
18日、マツダスタジアムで行われた広島14回戦は、8安打を放ちながら決定打を欠き、1―2で競り負けた。先発・伊藤将司は6回途中2失点と試合をつくったが、打線があと一本を出せず、今季初黒星を喫する結果となった。
数字だけを見れば阪神が押していた試合だった。安打数は広島を上回る8本。序盤から毎回のように走者を出しながら、ホームを踏めたのはわずか一度だけ。好機を何度も築きながら決め切れず、試合の主導権を握り切れなかったことが最後まで尾を引いた。
初回は近本光司が三塁ファウルフライ、髙寺望夢が二ゴロ、森下翔太が右飛とわずか3人で終了。一方の伊藤はその裏、先頭・名原典彦に左前打を浴びたものの、続く菊池涼介を5―4―3の併殺打に仕留めるなど落ち着いた立ち上がりを見せた。
阪神に最初の大きなチャンスが訪れたのは2回だった。
二死から立石正広が中前打で出塁すると、梅野隆太郎も左前打で続き、一、二塁。さらに熊谷敬宥が投手強襲の内野安打を放ち、あっという間に二死満塁と絶好の先制機を迎えた。
ここで打席には伊藤。
投手とはいえ、わずか1本の安打で試合の流れを引き寄せられる場面だった。しかし栗林良吏の前にワンバウンドする変化球で空振り三振。阪神は3安打を集めながら無得点に終わり、流れをつかみ損ねた。
すると、その裏は伊藤にも試練が待っていた。
先頭の坂倉将吾に右翼線へのエンタイトル二塁打を許すと、一死からモンテロに遊撃内野安打を浴び、一、二塁。さらに佐々木泰の中飛で二死一、三塁となり、持丸泰輝には四球を与えて満塁とされた。
一打先制を許しかねない場面。
ここで迎えた相手投手・栗林を、伊藤は渾身の直球で見逃し三振。最大のピンチを切り抜け、雄たけびを上げた。序盤のハイライトとも言える粘りの投球で、試合を0―0のまま進めた。
3回も阪神は近本が右前打で出塁したが、盗塁を試みて憤死。髙寺は空振り三振、森下は遊ゴロと攻撃は続かなかった。広島も名原、菊池、ファビアンが凡退し、試合はテンポよく中盤へ向かう。
4回には再び阪神にチャンスが巡る。
先頭・佐藤輝明は投ゴロに倒れたが、大山悠輔の打球を坂倉が一塁へ悪送球。記録は三塁手失策となり、一死一塁となった。しかし立石は右飛、梅野は三ゴロに倒れ、この回も得点は奪えない。
一方の伊藤は4回裏をわずか9球で三者凡退。坂倉を一ゴロ、小園を二ゴロ、モンテロを左飛と危なげなく封じ、着実にリズムを作っていく。
こうして迎えた5回表。
ここまで何度も好機を逃してきた阪神だったが、ようやく試合が動く。
先頭の熊谷が中飛、伊藤が空振り三振と簡単に二死となったものの、近本がこの日3本目となる右前打で出塁。続く髙寺が1ボール2ストライクから右翼線へ鋭い打球を放つと、打球はフェンス際まで転がる適時二塁打となった。
近本が一気にホームへ生還し、阪神が待望の先制点を奪う。
ここまで4安打を放ちながら無得点だった打線が、ようやく結果を残した瞬間だった。しかし、この1点が、この日の阪神にとって唯一の得点になるとは、この時点では誰も予想できなかった。
一瞬で消えたリード 伊藤将司は粘投も、坂倉の一発に泣く
ようやく奪った先制点だった。阪神が試合開始から5イニング目で待望の先制点を手にした。
それまで2回に二死満塁、4回にも失策で走者を出しながら得点できず、もどかしい攻撃が続いていただけに、大きな意味を持つ1点に思われた。
しかし、そのリードはわずか数分後に消えることになる。
5回裏、伊藤将司は先頭・佐々木泰に中前打を許すと、続く持丸泰輝にも中前打を浴び、無死一、二塁。この試合で初めて、広島打線に連打を許した。
続く栗林良吏は送りバントをきっちり決め、一死二、三塁。さらに名原典彦には死球を与え、一死満塁と、この日最大のピンチを迎える。
ここで打席には2番・菊池涼介。
カウント1―2と追い込みながらも、最後は右翼へ打球を運ばれた。右翼・森下翔太が捕球し、三塁走者・佐々木がタッチアップ。同点のホームを踏み、阪神のリードはわずか1イニングで消え去った。
なおも二死一、三塁と勝ち越しを許しかねない場面だったが、続くファビアンを見逃し三振。伊藤は最少失点で踏みとどまり、ベンチへ戻った。
内容だけを振り返れば、この回も決して崩れたわけではない。
送りバントを決められ、死球で走者をためたものの、適時打を許したわけではなく、失点は犠牲フライによる1点だけ。なおも続いたピンチではファビアンを見逃し三振に仕留め、試合を壊さなかった。
それだけに、打線がようやく奪った先制点を守り切れなかった悔しさが残るイニングとなった。
それでも6回表、阪神には再び勝ち越すチャンスが訪れる。
先頭・佐藤輝明は空振り三振に倒れたものの、大山悠輔が中前打で出塁。この日3度目の出塁となり、再び得点圏へ走者を進めたい場面だった。
しかし立石正広は右翼フライ。梅野隆太郎も空振り三振に倒れ、得点には結び付かない。
栗林の前にあと一本が出ない。
阪神打線はこの試合、近本が2安打、大山が安打と失策による出塁、立石、梅野、熊谷、中野も安打を放つなど、決して沈黙していたわけではない。
それでも安打が単発に終わるケースが目立ち、得点圏で流れをつなぐことができなかった。
すると、その裏だった。
先頭で打席に立った坂倉将吾。
伊藤が投じた一球をフルカウントから振り抜くと、打球は高々と舞い上がり、そのまま左翼スタンドへ飛び込んだ。
打った瞬間、それと分かる勝ち越しの10号ソロ。
マツダスタジアムが大歓声に包まれる中、伊藤は静かに打球の行方を見つめるしかなかった。
この試合で許した失点は、この一発を含めてわずか2点。
初回の併殺打、2回二死満塁で栗林を見逃し三振に仕留めた場面、5回一死満塁から犠飛1点でしのいだ粘りなど、随所で持ち味を発揮した。
それでも、勝敗を分けたのはたった一球だった。
坂倉に決勝弾を浴びた直後、小園海斗を遊ゴロに打ち取ったところで藤川監督はベンチを動く。
球数は102球。
ここで伊藤に代わり、木下里都がマウンドへ向かった。
伊藤は5回1/3を投げ、被安打6、2失点。失点はいずれも最少失点に抑えながら試合をつくったが、打線の援護は5回の1点だけ。粘投は白星につながらず、今季初黒星という結果だけが記録に残った。
投手戦では、わずかな得点差が勝敗を左右する。
だからこそ、8安打を放ちながら1点しか奪えなかった阪神打線の拙攻が、伊藤の力投を報われないものにしてしまったと言わざるを得なかった。
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最後まで届かなかったあと一本 救援陣は無失点も、広島リリーフ陣の前に11三振
1点を追う展開となった阪神だったが、投手陣は最後まで試合を壊さなかった。
6回裏一死から登板した木下里都は、モンテロに中前打を許したものの、続く佐々木泰を投手、遊撃、一塁と渡る1―6―3の併殺打に仕留める。わずか3球でピンチを断ち切り、流れを相手へ渡さなかった。
7回はセベリーノがマウンドへ上がる。
先頭の持丸泰輝に四球を与え、代打・前川誠太には送りバントを決められて一死二塁。得点圏へ走者を進められたものの、名原典彦を空振り三振、菊池涼介を三ゴロに打ち取り追加点は許さない。
8回はモレッタが登板。小園海斗に死球を与えたものの、ファビアンを中飛、坂倉将吾を見逃し三振、モンテロを空振り三振に抑え、1点差のまま最終回へ望みをつないだ。
3人の救援投手は合わせて3回2/3を投げ、被安打1、無失点。
勝敗だけを見れば敗戦だったが、救援陣は十分に役割を果たしたと言える内容だった。
だからこそ、なおさら悔やまれるのは打線だった。
7回表、阪神は広島先発・栗林良吏を攻め立てる最後のチャンスを迎える。
先頭の熊谷敬宥は右翼フライに倒れたものの、代打・中野拓夢が右翼へ鮮やかな安打を放ち出塁。代打起用に応え、反撃の口火を切る。
ここで打席は近本光司。
この日2安打を放っていたリードオフマンに期待が集まったが、二ゴロ。一塁走者・中野は二塁へ進めず、二死一塁となる。
続く髙寺望夢は、この日唯一の打点を挙げていたが、最後は空振り三振。栗林は7回を投げ切り、阪神打線に追加点を許さなかった。
阪神が最後に得点圏へ走者を進めたのは、5回の髙寺の適時二塁打までさかのぼる。
その後は大山悠輔が6回に中前打、8回には粘って四球を選ぶなど出塁を重ねたものの、後続が続かない。
8回には栗林に代わって左腕・ハーンが登板した。
先頭の森下翔太は空振り三振。
佐藤輝明もワンバウンドする変化球にバットが止まらず連続三振。
二死から大山が8球粘って四球を選び、一発同点への期待をつないだが、立石正広は一飛。ハーンの力強い直球と変化球のコンビネーションの前に、阪神打線は反撃の糸口を見いだせなかった。
そして迎えた9回。
広島は守護神・森浦大輔を投入する。
守備も石原貴規が捕手へ入り、坂倉将吾が一塁、小園海斗が三塁、勝田成が遊撃へ回るなど、逃げ切り態勢を完成させた。
阪神は7番・梅野隆太郎からの攻撃。
しかし梅野は空振り三振。
続く熊谷も空振り三振。
最後は代打・濱田太貴が起用されたが、森浦の前に3球三振。試合はわずか17球で幕を閉じた。
最後の3アウトはすべて空振り三振。
勝利への執念を見せた広島リリーフ陣に対し、阪神打線は最後まで攻略の糸口をつかめなかった。
終わってみれば8安打を放ちながら、奪った得点は髙寺の適時二塁打による1点のみ。
2回は二死満塁、4回は失策による走者、6回は大山の中前打、7回は中野の代打安打、8回は大山の四球と、得点につながる可能性は何度もあった。
しかし、そのたびにあと一本が出ない。
三振は11個を数え、特に終盤の3イニングでは打線が完全に広島投手陣のペースに引き込まれた。
伊藤将司が粘り、救援陣も踏ん張った。
それでも勝利を手繰り寄せられなかった最大の要因は、8本の安打を1点にしか結び付けられなかった攻撃陣の決定力不足にあった。
伊藤将司を見殺しにした打線 8安打1得点が突き付けた課題と求められる勝負強さ
敗戦の責任を一人の投手に負わせることはできない。
この日の伊藤将司は、5回1/3を投げて被安打6、2失点。2回には二死満塁のピンチで相手投手・栗林良吏を見逃し三振に仕留め、5回も無死一、二塁から送りバントで走者を進められ、一死満塁という苦しい場面を迎えながら、菊池涼介の犠飛による1点でしのいだ。6回には坂倉将吾に決勝ソロを浴びたものの、失点はその2点だけ。決して大量失点で崩れたわけではなく、十分に試合をつくった内容だった。
それだけに、伊藤に白星を付けられなかった打線の責任は重い。
阪神は35打数8安打。近本光司が2安打で得点を挙げ、大山悠輔も安打に加えて失策と四球で3度出塁。立石正広、梅野隆太郎、熊谷敬宥、中野拓夢もそれぞれ安打を放ち、数字だけを見れば決して打線が沈黙した試合ではなかった。
しかし、野球は安打数だけでは勝てない。
2回は二死から3連打で満塁としながら無得点。4回は失策で走者を出しながら後続が倒れた。5回は近本、髙寺の連打で先制したものの、その勢いを広げられず、6回は大山の安打を生かせない。7回は代打・中野が安打を放ちながら得点圏まで進められず、8回は大山の四球も実らなかった。
振り返れば、8安打は決して少ない数字ではない。それでも奪えた得点は、髙寺の右翼線への適時二塁打による1点だけだった。
この日の攻撃を象徴していたのは、「あと一本」の不足である。
打線がつながりそうでつながらない。走者を背負った場面で相手投手に踏ん張られ、終盤は栗林、ハーン、森浦の継投の前に11三振を喫した。特に8、9回は6人の打者のうち5人が三振。最後は梅野、熊谷、代打・濱田太貴が3者連続空振り三振に倒れ、反撃らしい反撃を見せられないままゲームセットを迎えた。
一方で、投手陣は最後まで試合を壊さなかった。
木下里都は併殺打で流れを断ち切り、セベリーノは得点圏に走者を背負いながら無失点。モレッタも8回をゼロに抑え、最後まで1点差を維持した。救援陣が3回2/3を無失点でつないだからこそ、打線には終盤に追いつくチャンスが残されていたとも言える。
だからこそ、この敗戦は余計に悔やまれる。
首位を争うシーズンでは、こうしたロースコアゲームをいかに拾えるかが、最終順位を左右することも少なくない。投手戦になれば、一つの適時打、一つの四球、一つの走塁が勝敗を分ける。この日は広島がその勝負どころをものにし、阪神はあと一本を出せなかった。その差が、わずか1点というスコアに凝縮されていた。
敗れはしたものの、伊藤将司の投球内容そのものを悲観する必要はない。救援陣も役割を果たした。課題が明確だったのは攻撃面である。
8安打を放ちながら1得点――。
この数字は、「打てなかった試合」ではなく、「打ちながら勝てなかった試合」だったことを物語っている。先発投手が試合をつくり、救援陣も流れを切らさなかった一戦。その努力を勝利へと結び付けるためにも、阪神打線には勝負どころで一本を仕留める集中力と、得点機を逃さない攻撃力が求められる。
首位を守り抜く戦いは、まだ続く。この敗戦を単なる1敗で終わらせるのか、それとも次戦への糧とするのか。8安打1得点という現実は、虎打線に改めて「勝負強さ」の重要性を突き付けた一夜だった。
