甲子園球場に詰めかけた観衆4万2641人の大声援が、夜空を震わせるように響いた。2025年8月31日、阪神タイガースが巨人を迎え撃った伝統の一戦は、7回裏に生まれた怒涛の4連打によって試合の流れが一変し、虎キチにとって忘れがたい逆転勝利となった。18時01分に試合が開始されてから3時間18分。緊迫感と歓喜が交錯した舞台裏を振り返る。
序盤、阪神は先発・才木が安定感ある投球を披露した。直球の力強さとスライダーの切れ味を武器に、巨人打線を翻弄。立ち上がりからテンポよくストライク先行の投球を続け、6回までを無失点に切り抜けた。甲子園のファンは安心感を持ちながら序盤を見守った。3回裏には、森下が値千金のタイムリーを放ち、阪神が先制に成功。打球は快音を残しながら左翼前に弾み、俊足の近本が本塁へと滑り込み、まずは虎が1点を先取した。森下は塁上で拳を強く握り、ベンチからも力強い拍手が飛んだ。
しかし、試合はそう簡単には運ばない。巨人の先発・横川も決して調子が悪かったわけではなく、低めに丁寧なボールを集め、阪神打線を凡打に仕留めた。4回以降は両軍の投手陣が持ち味を発揮し、拮抗した展開が続く。阪神は追加点のチャンスをつかみかけたが、要所で巨人守備陣が堅実なプレーを見せ、試合は緊張感を孕んだまま中盤へと進んだ。
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試合が大きく動いたのは7回表だった。才木は吉川に内野安打を許すと、巨人がここぞとばかりに攻勢を強める。中山がヒットで続き、代打の大城がライトへタイムリー二塁打。続く若林も快打で勝ち越し点を奪い、さらに代打・キャベッジがしぶとく右前に運び、この回3点をもぎ取った。甲子園のスタンドは一瞬、静まり返った。スコアは1−3と逆転され、阪神ファンの胸に不安が広がる。才木はここで降板となり、ベンチに戻る際には悔しさを滲ませた表情を隠せなかった。
しかし、ここからがこの日のドラマの幕開けだった。7回裏、阪神は先頭の小野寺がヒットで出塁すると、坂本、中川と倒れるものの二死から近本が39打席ぶりとなる待望の二塁打を左翼線へ放ち、スタンドを沸かせる。快足を飛ばし二塁へと到達すると、球場の雰囲気は一気に変わった。続く中野はカウント2−2から甘く入った変化球を中前へ弾き返し、二塁走者を迎え入れて一気に同点。土煙を上げて生還した近本の姿に、ベンチも観客席も総立ちとなった。さらに森下が左翼フェンス際の大飛球を放ち、レフトが捕球したかに見えたが落としており三塁打で勝ち越し。佐藤輝が続いて右翼線へ強烈な当たりを飛ばし、これもファールかと思われたボールが浜風に押し戻されてフェアグラウンドへ、エンタイトル二塁打で追加点。わずか数分間での4連打により、この回一挙4得点。スコアは5−3となり、甲子園は熱狂の渦に包まれた。
このラッキーセブンの猛攻は、単なる偶然の産物ではなかった。選手たちは相手投手の交代直後、中川に対して初球から積極的にスイングを仕掛け、甘いゾーンを逃さずとらえた。指揮官の「迷わず振れ」という指示と、選手の執念が噛み合い、劇的な展開を呼び込んだのである。スタンドではタオルを振り回し、声を枯らして応援するファンの姿が続き、甲子園全体が一体となった。
リードを奪った阪神は、継投策で勝利を引き寄せた。島本が7回のピンチを切り抜け勝利投手に。石井は8回に登板し、圧巻の投球で無失点。これで連続無失点記録を45試合に伸ばし、新たなプロ野球記録を樹立した。甲子園のファンはその歴史的瞬間に大きな拍手を送り、チーム全体が勢いに乗った。そして最終回は守護神・岩崎がマウンドへ。巨人の中軸打線を前に1点を失い、さらに一打同点の大ピンチを迎えたものの最後の打者を打ち取り、歓喜の声が甲子園を包んだ。スコアボードに「5−4」と刻まれた数字は、夏休みの最後を締め括る最高の結末となった。
試合後、森下はヒーローインタビューで「絶対に流れを取り戻したかった。みんながつないでくれたから自分も思い切って打てました」と語り、観客席から大歓声が送られた。佐藤輝も「自分の一打が追加点につながってよかった。優勝へ一歩近づけるよう、これからも一戦一戦全力で戦う」と力強く宣言した。中野は「近本さんが出てくれたので、絶対に返す気持ちだった」とコメントし、チームの結束を示した。
一方、巨人ベンチには悔しさが残った。阿部監督は「守備の綻びが流れを変えてしまった。勝たせてあげられなくて申し訳ない」と唇を噛み、リリーフ陣の踏ん張り切れなさに苦渋の表情を見せた。中川も「自分の責任。実力不足です」とうなだれた。勝ちパターンを崩されただけに、痛恨の一戦となった。
この試合を終えた阪神は、巨人戦を勝ち越し優勝マジックは「7」へと減少。リーグ制覇へさらに確実に近づいた。序盤から中盤でリードを失いながらも、終盤に力強く巻き返す姿は、チームが持つ底力を改めて証明したと言える。若手とベテランが融合し、誰かが倒れても誰かが必ずカバーする。そんな全員野球が、この日の勝利を導いたのだった。
甲子園のスタンドから帰路につくファンの表情は、みな誇らしげだった。「やっぱり阪神は強い」「今年こそ間違いない」。そうした声が球場外にまで響き、夏の終わりを告げる夜風に溶けていった。8月ラストの一戦、虎が咆哮した甲子園の夜は、何よりも雄弁にチームの強さを物語っていた。

