2025年10月30日、甲子園球場。
1勝3敗と崖っぷちに立たされた阪神タイガースが、聖地にすべてを懸けて挑んだ第5戦。
この夜の甲子園は、いつも以上に熱かった。
黄色と黒の旗が揺れ、「まだ終わらせへんで!」という声援が響き渡る。
藤川球児監督が託したのは、安定感抜群の左腕・大竹耕太郎。
相手は日本シリーズ男・有原航平。まさに意地と意地のぶつかり合いとなった。
■静かな立ち上がり─大竹、持ち味発揮のテンポ投球
1回表、大竹は柳田・周東・柳町の上位打線をわずか10球で三者凡退。
緩急自在の投球でソフトバンク打線のリズムを完全に封じた。
その裏、阪神打線は近本・中野・森下の1〜3番が凡退し、試合は緊迫した投手戦の幕開けとなった。
■2回、坂本の一打で甲子園沸騰!先制点を奪う
2回裏、4番・佐藤輝明が先頭で左前ヒットを放つと、続く大山が四球。
この日も慎重な攻めを見せるソフトバンクバッテリーを尻目に、髙寺もフォアボールを選び二死一二塁のチャンス。
ここで打席に立ったのは8番・坂本誠志郎。
2−1からの甘いスライダーを逃さず、左前へクリーンヒット!
俊足のサトテルが一気にホームイン。阪神が1−0と先制した。
ベンチの藤川監督は力強くガッツポーズ。
甲子園が一瞬、昼間のように明るくなった。
■大竹、淡々とゼロを並べる──“超遅球”で観衆どよめく
3回以降も大竹は安定感抜群だった。
69km/hの“超スローカーブ”を織り交ぜる技巧派投球で、柳町や山川を手玉に取り、5回まで無失点・被安打3の快投。
ベンチに戻るたびに藤川監督と拳を合わせる姿には、自信と集中がみなぎっていた。
■5回、サトテルのタイムリーで追加点!主砲の仕事
5回裏、大竹が自らセンター前ヒットで出塁すると、近本もライト前へ運び無死一二塁。
中野が送りバントを失敗するも、森下が粘ってセンターフライでつなぎ、二死一二塁。
ここで打席に立ったのは4番・サトテル。
カウント2−2から有原のストレートを弾き返し、センター前へタイムリーヒット!
2−0。主砲の一撃に甲子園が再び爆発した。
この一打で、藤川監督は勝利の方程式を思い描いたはずだ。
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■大竹、6回を投げ抜きゼロ封─“完璧な仕事”
6回表、ソフトバンクは代打攻勢に出る。
嶺井、正木に連打を浴びかけるも、最後は周東をレフトフライに仕留め無失点。
大竹はこの回で降板。6回・被安打3・無失点という堂々の内容だった。
藤川監督はベンチで彼を迎え、静かに肩を叩いた。
甲子園全体から「おおたけ!」のチャントが響いた。
■7回、継投リレーも盤石─及川が無失点リレー
7回からは及川が登板。
柳町にヒットを許し、野村に四球を与えるも、代打・近藤を見逃し三振。
気迫の投球でピンチを切り抜け、甲子園の空気をさらに熱くした。
藤川監督は満足げに頷き、ベンチのムードは最高だった。
■8回、悪夢の2ラン…柳田に仕留められる
しかし、野球の神様は残酷だった。
8回表、マウンドに上がったのは石井大智。
先頭の嶺井にライト前ヒットを許すと、代打ダウンズを三振に取った後、3番・柳田がフルスイング。
打球は高々と舞い上がり、ライトスタンド最前列へ一直線──2ランホームラン。
2−2の同点。
甲子園が静まり返る。石井は天を仰ぎ、藤川監督もベンチで動かずに帽子を深く下げた。
この回さらに柳町に三塁打を浴びるも、後続を断ち追加点は許さなかった。
それでも、あまりに大きな一発だった。
■9回、互いに決め手を欠く緊迫の攻防
8回裏、佐藤・大山・木浪が倒れ、阪神は反撃の糸口をつかめず。
9回表、岩崎がマウンドへ。川瀬を打ち取り、嶺井に死球を与えるも後続を封じて無失点。
9回裏、代打・島田もショートフライに倒れ、2−2のまま試合は延長戦へ突入した。
甲子園のファンは総立ち。「最後まで信じてるで!」という声が止まらなかった。
■10回、村上登板─守備の乱れが影を落とす
10回表、ここでなんと村上が登板。スタンドの4万大観衆が一気に湧き上がる。
一死から周東の打球を中野がファンブルし、痛恨の失策。
だが、後続の柳町をセカンドゴロ、山川をレフト前に抑え、一二塁のピンチも栗原を打ち取って無失点。エースの貫禄でしのぎ切った。
その裏、近本・中野・森下が三者凡退。勝ち越しのチャンスを逃した。
■11回、野村の一発…虎の夢を砕いた一撃
11回表、村上は先頭・野村に対し2−2からのストレートを投じた。
カキーン──乾いた打球音が甲子園に響く。
白球はライトスタンドへ一直線。
ソフトバンクが3−2と勝ち越し。
村上は表情を変えずにボールを受け取り、次の打者に向き合った。
それでも、スタンドからは「頑張れ、むらかみ!」の声が鳴り止まなかった。
続く川瀬にもヒットを許したが、嶺井・緒方を連続で打ち取り、柳田をセンターフライに仕留めた。
最少失点で切り抜ける姿に、藤川監督も「よう耐えた」と呟いたという。
■11回裏、最後の攻撃──執念はあった
ラストイニング、先頭の佐藤輝が粘って8球目で四球を選ぶ。
代走・植田が出ると、ベンチもスタンドも一気に総立ち。
しかし、大山がセンターフライ、木浪がショートゴロ、髙寺がセカンドゴロ。
ゲームセット。
阪神2−3ソフトバンク。
試合時間4時間28分、延長11回の死闘は、最後まで紙一重の差だった。
■大竹の快投、藤川監督の継投─悔しさの残った一戦
この日の大竹は6回無失点・被安打3・奪三振3。
打者としても自らヒットを放ち、チームを鼓舞した。
藤川監督の継投も決して間違っていない。
及川・石井・岩崎・村上、すべてが持てる力を出し切った。
だが、結果的に勝負を決めたのは“長打力”の差だった。
阪神が8安打を放ちながらも、得点はわずか2。
一方、ソフトバンクは10安打のうち3本が長打。
この差が、勝敗を分けた。
■打線の奮闘─サトテルと坂本の意地
佐藤輝明は4打数2安打1打点に四球を加え、シリーズを通して絶好調を維持。
初回から鋭いスイングを見せ、主砲の貫禄を見せつけた。
また、坂本誠志郎の先制打は試合の流れを完全に引き寄せた。
ベテラン捕手が見せた執念の一打は、敗戦の中でも特筆すべき価値を持つ。
一方、大山は2四球を選ぶもノーヒットに終わり、悔しさをにじませた。
「あと一本」─この言葉が、チーム全体を覆った夜だった。
■藤川監督、敗戦後も前を向く
試合後、藤川監督は淡々と語った。
「選手たちは全員が魂を出し切った。
内容では決して負けていない。この悔しさを必ず来年につなげる」
この言葉に、報道陣の前でも涙を見せる選手はいなかった。
だが、ベンチ裏で植田と熊谷が抱き合いながら肩を震わせていたという。
それだけ、全員が本気で戦い抜いた証だった。
■誇り高き敗北。希望を残して戦い終える
阪神は2−3で敗れ、日本シリーズはソフトバンクの4勝1敗で終戦を迎えた。
最終戦となったこのゲームは悔しい結果であるが、内容は胸を張れるものだった。
大竹の復活、佐藤の勝負強さ、そして甲子園を包んだ“最後まで諦めない”声援。
それらすべてが、チームの未来につながる財産となった。
日本一には届かなかったが、タイガースの魂は消えない。
この夜、甲子園にいた誰もがそう信じていた。
また立ち上がれ─。
夢の続きは、来シーズンへ持ち越しとなった。
