一振りで、景色が変わった。
阪神は16日、バンテリンドームで中日との16回戦に臨み、3-1で逆転勝ち。六回まで中日先発・柳裕也に無安打に封じられる苦しい展開を、4番・佐藤輝明が七回の21号2ランでひっくり返した。八回には代打・濱田太貴が移籍後初アーチとなる1号ソロ。チーム全体でわずか4安打ながら、投手陣と守備が1点を守り、勝負どころの二発で3カード連続の勝ち越しを決めた。
序盤の阪神打線は、完全に柳の手のひらの上だった。
初回、先頭・近本光司の打球を柳が悪送球。いきなり無死二塁という絶好機を迎えた。だが、中野拓夢は中飛、森下翔太も中飛。走者を三塁へ進めることもできない。二死二塁で佐藤輝が打席に立ったが、最後は空振り三振。相手のミスでもらった好機を生かせず、嫌な立ち上がりとなった。
二回は大山悠輔が遊ゴロ、前川右京が左飛、伏見寅威が遊ゴロ。三回も小幡竜平、伊原陵人、近本がすべて二ゴロに倒れた。柳は球速や力だけで押すのではなく、コースと球種を散らし、阪神打線の狙いを外し続けた。
四回は先頭の中野が左飛。森下がストレートの四球を選び、一死一塁としたものの、佐藤輝の鋭い打球は二塁手の正面を突く二直となった。大山も二ゴロに倒れ、またも走者を残した。五回は前川が空振り三振、伏見が中飛、小幡が遊邪飛。六回も伊原の代打・福島圭音が空振り三振、近本が中飛、中野が二ゴロ。六回終了時点で、阪神の安打欄には「0」が並んでいた。
藤川球児監督も試合後、柳の投球のうまさに打線が封じ込められていたと振り返った。甘い球を待っているうちに追い込まれ、早いカウントから仕掛けても芯を外される。打者が狙いを絞り切れないまま、イニングだけが進んでいった。
それでも、試合が壊れなかったのは先発・伊原の粘りがあったからだ。
初回は岡林勇希を一ゴロ、細川成也を三ゴロ、村松開人を二ゴロ。すべて内野ゴロで三者凡退に片づけた。三回は福永裕基に遊撃内野安打を許し、柳の投犠打で一死二塁。岡林を左飛に打ち取った後、細川に四球を与えた。二死一、二塁から村松に中前適時打を浴び、先制点を許した。
なおも一、二塁だったが、伊原は中日の4番・サノーを空振り三振。ここで踏みとどまったことが大きかった。三回の失点はこの1点だけ。四回は石川昂弥を見逃し三振、石伊雄太を捕飛。ボスラーに8球粘られて四球を与えたが、福永を右飛に打ち取った。五回は柳を左飛、岡林を左飛、細川を中飛。最後は3者連続の外野フライで締めた。
伊原は5回93球、打者20人に2安打、4奪三振、3四球の1失点。四球が重なり、決して余裕のある投球ではなかった。それでも相手打線に追加点を許さず、1点差のまま救援陣にバトンを渡した。
六回は2番手・木下里都。先頭の村松に四球を与えたが、サノーを一邪飛、石川昂を遊ゴロ、石伊を空振り三振に仕留めた。12球で1回無安打無失点。打線が無安打のままでも、若い右腕は淡々とゼロを刻んだ。
七回、初球を右中間席へ 佐藤輝が柳の無安打投球を逆転弾で粉砕
0-1の七回表。六回まで無安打。柳の投球数は増えていたが、その勢いが落ちたようには見えなかった。
その空気を動かしたのは、先頭の森下だった。柳の投球が体に当たり、死球で出塁。四回の四球以来となる走者が一塁に立った。
そして、4番・佐藤輝が打席へ向かった。
初回の第1打席は、二死二塁で空振り三振。四回の第2打席は、真ん中に入ったカットボールを強くはじき返しながら二直に終わった。結果だけを見れば2打席無安打だったが、第2打席ではタイミングが合い始めていた。
七回無死一塁。柳が投じた初球は、高めに入ったチェンジアップだった。
佐藤輝はためらわなかった。鋭く振り抜いた打球は右中間へ一直線。中日の外野手が早々に追うのをやめる中、打球はスタンドへ飛び込んだ。今季21号の逆転2ラン。六回まで続いていた柳の無安打投球を止めた一打は、同時に試合をひっくり返す決勝弾となった。
チーム初安打が本塁打。しかも、1点を追う七回の逆転弾。ノーヒットノーランの気配さえ漂っていたバンテリンドームの空気を、4番がたった1球で変えた。
佐藤輝は試合後、チームが無安打だったことは特に意識していなかったと話し、狙いを絞って打席に入ったことを明かした。柳には今季も、この試合まで7打数1安打。プロ入り後も本塁打を打てていなかった相手だった。それでも打席で余計なことは考えず、狙った球を迷わず振り抜いた。
柳からの本塁打は、プロ通算で初めてだった。佐藤輝自身も、これまで柳に抑えられてきたことは理解していたと認めた上で、その相手から大事な場面で一発を放てたことを喜んだ。
藤川監督は、柳の投球術に打線が苦しめられていた中、佐藤輝がしっかりと打ち返したと評価した。攻略の糸口が見えない試合で、打線全体が少しずつ相手を崩したのではない。4番の一振りが、相手投手の好投を一気に勝敗へ結びつかないものにした。
佐藤輝はこの一発で、4番としての通算本塁打を75本とし、大山に並ぶ球団歴代5位となった。数字だけではない。六回まで0安打、1点差の七回、無死一塁。最も重い場面で打ったことに価値があった。
逆転後、阪神はなおも攻めた。大山は投ゴロに倒れたが、前川が左翼への二塁打。ここで前川に代わって髙寺望夢が代走に送られた。
続く伏見の打球は左飛。通常なら二塁走者が動きにくい浅めの飛球だったが、髙寺は果敢に三塁を狙った。三塁での判定はセーフ。中日がリクエストを要求したものの、判定は変わらなかった。二死三塁と追加点の好機をつくったが、小幡は中飛に倒れた。
得点には結びつかなかった。それでも髙寺の走塁は、六回まで柳に抑えられていた阪神が、攻撃の圧力を取り戻したことを示していた。
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大山の本塁送球が同点阻止 木下にプロ初勝利、伏見が投手陣を導く
佐藤輝の逆転弾で流れをつかんでも、そのまま簡単に終わる試合ではなかった。
七回裏、阪神は木下から工藤泰成へ継投。代走で出場した髙寺がそのまま左翼の守備に入った。
工藤は先頭のボスラーを空振り三振。福永もワンバウンドする球で空振り三振に仕留め、あっという間に二死を奪った。しかし、代打・高橋周平に四球。代走・土田龍空が送られ、岡林にも四球を与えた。二死一、二塁。2者連続三振から、一転して同点の走者を得点圏に背負った。
打席には細川。工藤の投球を捉えた打球は、三遊間深くへ転がった。遊撃・小幡が追いつき、一塁へ送球した。
小幡の送球はワンバウンド、さらにツーバウンドとなり、一塁へ向かっていた細川との競争は微妙なタイミングだった。一方で二塁走者の土田は三塁を回り、本塁へ突入していた。
一塁手・大山は、小幡の送球を前に出て捕球した。そこで一塁のアウトに固執しなかった。打者走者との勝負をすぐに見切ると、体を本塁方向へ向け、伏見へ素早く送球。伏見が滑り込んだ土田にタッチした。
判定はアウト。中日ベンチがリクエストを要求したが、リプレー検証後も判定は変わらなかった。細川には遊撃内野安打が記録されたものの、土田は本塁で走塁死。阪神は2-1のリードを守った。
大山は試合後、状況を見ながら良い判断ができたと振り返った。この日は打撃で4打数無安打。初回は遊ゴロ、四回は二ゴロ、七回は投ゴロ、九回は二併打に倒れた。それでも勝敗を左右する守備で大きな仕事を果たした。
解説者からも、一塁のアウトかセーフかに意識を奪われず、走者の動きへ素早く視線を移した判断が評価された。打撃成績には残らないが、同点を防いだ事実は決勝打と同じインパクトがあった。
工藤は1回24球、1安打、2奪三振、2四球で無失点。ピンチは招いたが、守備にも救われてリードを守り、ホールドを記録した。
六回を無失点に抑えた木下には、プロ初勝利がついた。木下は、打線が得点してくれるかもしれないと思いながら見ていたところ、本当に佐藤輝が打ったため驚いたと笑顔を見せた。これで8試合連続無失点。1回をきっちり抑えた直後に打線が逆転し、待望の白星が転がり込んだ。
ただ、藤川監督は木下だけでなく、捕手・伏見の存在を強調した。伏見が試合をよく引っ張っているとし、若い投手だけでなく、他の捕手にとっても学ぶべき技術があると評価した。
この日の伏見は打撃では遊ゴロ、中飛、左飛、投ゴロの4打数無安打だった。それでも伊原、木下、工藤、岩崎優、ドリスという5投手をリードし、中日打線を4安打1得点に抑えた。四球は計8個与えたが、走者を背負った場面で最少失点にとどめた。
打てなかった選手が、守備や走塁で勝利に関わる。阪神が劣勢の試合をものにできた背景には、数字に表れにくい仕事があった。
濱田が移籍後初アーチ 救援陣が締め、4安打でつかんだ3カード連続勝ち越し
七回を終えて2-1。阪神は八回、さらに貴重な1点を加えた。
中日は七回まで102球を投げた柳から、左腕・牧野憲伸へ継投。阪神は工藤の打順に代打・濱田を送った。
カウント1-2。牧野の投球を濱田が振り抜くと、打球は左翼スタンドへ飛び込んだ。今季1号ソロ。2025年の現役ドラフトで阪神に加入してから、初めての本塁打だった。
1点差と2点差では、終盤の守り方が大きく変わる。四球一つ、走者一人にかかる重圧も違う。濱田の一発は、単なる追加点ではなく、救援陣に余裕を与える大きな1点だった。
藤川監督も、チームにとって、そして濱田本人にとっても大きな本塁打になったと評価した。長打力を期待されて加入しながら、本塁打が出ない打席が続いていた。移籍後23打席目で飛び出した一発は、濱田にとっても新たなスタートになる。
濱田の後は近本が中飛、中野が見逃し三振、森下が左飛。牧野をさらに崩すことはできなかったが、1点を加えた意味は大きかった。
八回裏は岩崎が登板。先頭・村松を左飛に打ち取った後、サノーに四球。中日は代走・辻本倫太郎を送った。だが、岩崎は石川昂を空振り三振、石伊を左飛に仕留めた。1回19球、1四球1奪三振で無失点。走者を一塁から動かさなかった。
九回表、佐藤輝が四球を選んで出塁。大山は二併打に倒れたが、二死から髙寺が中前打を放った。これが阪神の4本目の安打。伏見は投ゴロに倒れ、追加点はならなかった。
結局この日の阪神の安打は、佐藤輝の右中間本塁打、前川の左翼二塁打、濱田の左越え本塁打、髙寺の中前打の4本だけだった。
近本、中野は4打数無安打。森下は2打数無安打ながら四球と死球で2度出塁し、逆転のホームを踏んだ。佐藤輝は3打数1安打2打点、1四球。大山は4打数無安打。前川は3打数1安打。伏見は4打数無安打、小幡は3打数無安打だった。
九回裏は守護神・ドリス。先頭のボスラーを遊直、福永を空振り三振に仕留め、二死を奪った。だが、代打・阿部寿樹に四球。岡林には左前打を許し、二死一、二塁となった。
打席には細川。一発が出れば逆転サヨナラという場面。阪神ベンチからコーチがマウンドへ向かった。
最後はドリスが細川を空振り三振。18球を要し、走者2人を背負いながら無失点で締めた。今季15セーブ目。阪神は3-1で逃げ切った。
投手陣は伊原が5回1失点。木下が六回を無失点、工藤が七回、岩崎が八回、ドリスが九回をそれぞれ無失点でつないだ。勝利投手は木下で、プロ初勝利。工藤と岩崎にホールド、ドリスにセーブが記録された。
中日打線には4安打を許し、8四球を与えた。それでも失点は三回の村松の適時打による1点だけ。守備の助けも受けながら、最後まで本塁を踏ませなかった。
36,665人が見守ったバンテリンドーム。試合時間は3時間2分。阪神は45勝36敗1分けとし、セ・リーグ単独首位を守った。
六回まで無安打でも、先発が1点で耐えた。2番手がゼロを刻み、4番が最初の安打を逆転本塁打にした。守備で同点を防ぎ、代打の一発で突き放した。最後は救援陣が走者を出しながらも逃げ切った。
快勝ではない。柳を打ち崩したとも言いにくい。それでも勝った。
わずか4安打で3得点。打てない時間を耐え、勝負どころだけを逃さなかった。首位を走る阪神の強さが凝縮された一戦だった。
