“あと一球”からの悲劇・・・才木、完封目前で痛恨被弾

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甲子園を埋めた4万2647人の視線が、ただ一人の右腕に注がれていた。阪神先発・才木浩人は九回二死三塁。あと一人、あと一球で完封勝利という大仕事を目前にしながら、最後に待っていたのはあまりにも残酷な結末だった。

巨人との15回戦。阪神は2回、相手のミスで先制しながらも、その1点を守り切れず延長十回に力尽きた。2―4。首位を争うライバルとの一戦は、劇的な逆転負けという形で幕を閉じた。

試合前から注目を集めたのは、阪神・才木と巨人・ウィットリーによる投げ合いだった。才木はここまで巨人戦で圧倒的な相性を誇り、この日も立ち上がりから危なげない投球を披露する。

一回、先頭・浦田を二ゴロ、松本も二ゴロに打ち取り、最後は泉口を二直。わずか9球で三者凡退に仕留め、上々のスタートを切った。

その裏、阪神打線はすぐさま先制機を築く。

近本は中飛に倒れたものの、中野が四球を選ぶと、森下が中前打。一死一、三塁と先制の好機を迎える。しかし佐藤輝は捕邪飛、大山も一邪飛に倒れ、絶好機を生かすことはできなかった。

それでも、才木のリズムはまったく崩れない。

二回表は圧巻だった。

4番ダルベックを空振り三振。続く大城も空振り三振。そして笹原も空振り三振。ストレートの力強さとフォークの切れ味で三者連続空振り三振を奪い、巨人打線を寄せ付けない。中継で解説を務めた岡田彰布オーナー付顧問も「今日はボールが暴れていない」と、立ち上がりの完成度の高さを評価していた。

その裏、阪神は試合唯一の「攻めの形」を作る。

元山が三振に倒れたあと、高寺が四球、梅野が死球で一、二塁。打席には投手・才木が入る。

送りバントは三塁前へ転がった。ウィットリーは素早く処理したものの、一塁への送球がそれる。この間に二塁走者・高寺が生還。記録は投手の犠打と失策。ヒットなしで阪神が1点を先制した。

なお一死一、三塁と追加点の好機は続いたが、近本は空振り三振、中野は投ゴロ。大量点にはつながらなかったものの、試合の均衡を破る1点を先にもぎ取った。

三回以降は、完全に投手戦の様相となる。

三回表、石塚に四球を与えた才木は、ウィットリーの送りバントで二死二塁とされる。それでも浦田を空振り三振。得点圏に走者を背負っても動じることはなかった。

一方の阪神は三回裏、一死から佐藤輝が右翼前打で出塁するが、大山が遊撃併殺打。攻撃の流れを断ち切られる。

四回表には泉口に内野安打を許したものの、ダルベックを空振り三振、大城を中飛に打ち取り無失点。

四回裏は元山が左前打で出塁。しかし高寺の一ゴロで走者が進み、続く梅野の一塁ライナーでは飛び出した二塁走者・元山も戻れず併殺。攻撃のリズムを作り切れない。

五回、六回も試合の構図は変わらなかった。

才木は五回を三者凡退。六回もウィットリーを見逃し三振、浦田を一ゴロ、松本を空振り三振。六回終了時点で11個目の三振を奪い、巨人打線はほとんど前に飛ばすことすらできない状況だった。

阪神打線も六回裏、一死から大山が四球、元山が右前打、さらに梅野の遊撃内野安打で二死満塁と、この試合最大の追加点のチャンスを迎える。

しかし、打席には再び才木。

ウィットリーの前に空振り三振。追加点を奪えず、1―0のまま終盤へ突入することになる。

結果的に、この「もう1点」が、試合の行方を大きく左右することになった。

 

圧巻の13奪三振。それでも「あと一球」が遠かった九回の悲劇

1点のリードは決して大きくはなかった。それでも、この日の才木浩人の投球を見ていれば、多くの虎党が「このまま終わる」と信じて疑わなかったはずだ。

七回表も危なげない。

先頭の泉口を中飛に打ち取ると、4番ダルベックも右翼への飛球。最後は大城を遊飛に仕留め、この日7イニング目の無失点。球数は100球を超えていたが、ストレートの威力もフォークの落差も衰える気配はなかった。

阪神打線は七回裏、ウィットリーから中川への継投を前に、何とか追加点を狙う。

しかし近本は一ゴロ、中野も一ゴロ、森下は左飛。わずか8球で攻撃が終わり、流れを引き寄せることはできない。

それでも、才木はまったく動じなかった。

八回表。

代打・キャベッジをフォークで空振り三振。続く佐々木も空振り三振に切って取る。二死から石塚に右翼前打を許し、この日初めて得点圏へ進まれる可能性が生まれたが、代打・丸をフォークで空振り三振。雄たけびを上げながらマウンドを降りた。

この時点で12奪三振。

球場全体が才木の快投に酔いしれていた。

八回裏、阪神は巨人3番手・森田を攻める。

先頭の佐藤輝が四球で出塁。無死一塁となり、ようやく追加点の匂いが漂う。

だが、大山が空振り三振。続く元山はきっちり送りバントを決めたものの、高寺が空振り三振。終盤でもう1点を奪うことはできなかった。

結果として、この攻撃が試合の大きな分岐点となる。

1点差のまま迎えた九回表。

甲子園には自然と完封を期待する空気が漂っていた。

先頭・浦田に右翼前打を許したのは、この日初めて先頭打者の出塁だった。

続く松本は送りバント。

一死二塁。

ここで阪神ベンチはマウンドへ向かう。しかし、ここまで圧倒的な投球を続けてきた才木を代えるという選択肢はなかった。

泉口は二ゴロ。

二塁走者・浦田は三塁へ進み、二死三塁。

あとアウト一つ。

あと一球。

打席には、この日ここまで3打席連続で凡退し、2三振を喫していたダルベックが入る。

カウント2―2。

才木が投じた5球目だった。

打球は左中間へ高々と舞い上がる。

打った瞬間、野手は動かなかった。

スタンドへ吸い込まれる逆転2ラン。

ダルベックの16号。

甲子園は一瞬で静まり返った。

九回二死三塁。

あとアウト一つ。

あと一球。

その目前で、才木の完封も完投勝利も消え去った。

この日130球を投げ抜き、被安打4、13奪三振という圧巻の内容。それでも、最後の一球が結果を大きく変えてしまった。

続く大城を見逃し三振に仕留め、才木は九回を投げ切る。

しかし、ベンチへ戻る右腕の表情には、ここまで見せてきた力強さとは違う悔しさがにじんでいた。

それでも阪神は、まだ試合を終わらせなかった。

九回裏。

巨人は森田から守護神・マルティネスへスイッチする。

代打・ガルシアは三ゴロに倒れるが、代打・福島が中前打で出塁。代走・植田が送られ、近本が四球を選んで一、二塁。

さらに中野が右翼前へ運び、一死満塁。

この試合最大の勝負どころが訪れる。

打席には3番・森下翔太。

カウント1―1から放った打球は右翼への大きな飛球となる。

三塁走者・植田が迷わずスタート。

右翼手が捕球すると同時に本塁へ生還し、阪神は土壇場で2―2の同点に追い付いた。

なお二死一、三塁。

サヨナラ勝利への期待が最高潮に達する。

しかし4番・佐藤輝は、一打サヨナラの場面で空振り三振。

甲子園の熱気は、そのまま延長戦へ持ち越されることになった。

 

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延長十回、小濱のプロ初アーチが決勝弾 粘り届かず首位攻防戦を落とす

九回裏に森下翔太の犠飛で土壇場の同点に追い付き、甲子園の空気は一気に阪神へ傾いた。

あと一本――。

そんな期待を抱かせる流れだったが、延長戦では巨人がわずかな隙を逃さなかった。

阪神は十回から岩崎優をマウンドへ送り、捕手も梅野から坂本誠志郎へ交代。延長戦を見据えた布陣で勝ち越しを阻止にかかった。

しかし、先頭打者のキャベッジに遊撃への内野安打を許す。

打球は深い位置へのゴロ。元山が懸命に処理したものの間に合わず、無死一塁。試合を通じて再三送りバントを決めてきた巨人は、この場面でも迷いなく犠打を選択する。

続く佐々木俊輔が初球できっちり送り、一死二塁。

得点圏へ走者を進め、打席には八回から三塁の守備に就いていた小濱佑斗が入った。

ここまでプロ初本塁打はまだなく、この日も途中出場だった。

カウント1―1。

岩崎が投じた3球目を、小濱は迷いなく振り抜く。

打球はぐんぐん伸び、レフトスタンドへ飛び込んだ。

勝ち越し2ラン。

プロ初本塁打が、延長十回の決勝弾となった。

歓喜する巨人ベンチとは対照的に、甲子園は静まり返る。

阪神にとっては、九回二死から追い付いた勢いを一瞬で断ち切られる一発だった。

それでも岩崎は動揺を引きずらなかった。

続く代打・坂本勇人を左飛、浦田も左飛に打ち取り、この回を最少失点で終える。

2点差。

攻撃は残り一度だけとなった。

巨人は勝ち投手となるマルティネスから守護神・田中瑛斗へスイッチする。

阪神はまず大山が三飛。

一死となったものの、続く元山がこの日3本目となる右前打を放ち、一塁へ歩く。

この試合、元山は打線の中で最も存在感を放った一人だった。

四回の左前打、六回の右前打に続き、延長十回にも右前打。送りバントも一つ決め、攻守に堅実な働きを見せた。

しかし、反撃はここまでだった。

髙寺は二ゴロ。

二死一塁となり、最後の打者には代打・立石正広が送られる。

一発が出れば同点という場面。

田中瑛の前にカウントを追い込まれると、最後は見逃し三振。

ゲームセット。

三時間三十七分に及ぶ熱戦は、巨人が4―2で競り勝った。

阪神は8安打を放ちながら2得点。巨人は6安打ながら2本塁打で4得点を挙げた。

数字だけを並べても、この試合が「長打力」の差によって決着したことが分かる。

阪神は二回に相手失策で先制し、九回には森下の犠飛で追い付いたが、適時打はその森下の犠飛による1打点のみ。

一方の巨人は九回のダルベック、十回の小濱と、終盤に飛び出した2本の本塁打だけで4点を奪った。

同じように走者を出しながら、最後に勝敗を分けたのは、一振りで試合を動かす長打だった。

とはいえ、この試合を「打線だけ」の責任とすることはできない。

六回二死満塁、八回無死一塁など追加点を奪う機会は確かに存在したが、それ以上に目立ったのは、九回二死まで相手打線を完全に封じ込めた才木の圧巻の投球だった。

だからこそ、あと一球からの逆転弾は、チーム全体に与えた衝撃も大きかった。

そして、この試合はまだ終わっていなかった。

敗戦の中にも、才木が見せた圧巻の内容、打線が土壇場で追い付いた執念、そして勝負を分けた終盤の一球一球について、試合後にはさまざまな言葉が交わされることになる。

敗戦の先に見えたもの 才木の快投は色あせず、首位攻防はなお続く

スコアだけを見れば、阪神は延長十回の末に2―4で敗れた一戦だった。

しかし、この試合は単なる一敗では片付けられない。

甲子園を埋めた4万2647人が目の当たりにしたのは、エースが完封目前まで相手打線を封じ込めながら、あと一歩で勝利を逃した野球の厳しさだった。

才木浩人は9回130球を投げ抜き、被安打4、奪三振13、与四球1。

九回二死まで許した走者はわずか5人。巨人打線は七回まで散発2安打しか放てず、得点圏に走者を置いてもあと一本が出なかった。

二回にはダルベック、大城、笹原を三者連続空振り三振。

六回終了時点で11奪三振。

八回には代打・キャベッジ、佐々木、代打・丸から3三振を奪い、この日13個目の三振を記録した。

直球で押し込み、フォークで空振りを奪う。この日の投球内容は、今季の中でも屈指の出来だったと言っていい。

だからこそ、九回二死三塁で浴びたダルベックの逆転2ランは、数字以上に重い一打となった。

試合後、才木は「最後の最後で甘く入ってしまった」と悔しさをにじませながらも、自らの責任として受け止める姿勢を崩さなかった。圧倒的な内容だったからこそ、本人にとっても忘れ難い一球になったことは想像に難くない。

一方で、阪神打線にも勝機は何度もあった。

二回は相手失策で先制し、一死一、三塁から追加点を奪えなかった。

六回には二死満塁。

八回には無死一塁。

九回には一死満塁。

いずれも流れを決定づける場面だったが、あと一本が生まれなかった。

最終的に8安打、四球6、死球1で2得点。

走者を出すことはできても、試合を決定づける一打には結び付かなかった。

その中で光を放ったのは元山飛優だった。

四回、六回、十回と3安打を放ち、送りバントも一つ成功。攻守に落ち着いた働きを見せ、終盤まで打線を支えた。

中野も1安打2四球で3度出塁。

森下は初回の中前打に加え、九回には敗戦を免れる同点犠飛を放ち、最後まで勝負強さを見せた。

ただ、四番・佐藤輝、大山の中軸にはあと一本が生まれず、六回の満塁機でも得点を奪えなかったことは、試合全体を振り返ったときに大きなポイントとなった。

一方の巨人は、打線全体では6安打しか放っていない。

それでも、九回のダルベック、十回の小濱。

試合終盤に飛び出した2本の本塁打だけで4得点を挙げた。

特に小濱は、八回に代走として途中出場し、そのまま三塁の守備へ。延長十回、一死二塁で巡ってきた最初の打席でプロ初本塁打を放ち、勝負を決めた。

終盤の一振りが勝敗を左右する――。

首位を争うチーム同士の対戦らしい、わずかな差が結果となって表れた試合だった。

阪神はこの敗戦で痛恨の黒星を喫したものの、才木が見せた投球内容そのものは、決して色あせるものではない。

130球を投げ切り、13三振を奪い、九回二死まで無失点。

その投球がチームに勝利をもたらせなかったのは、野球という競技の非情さを象徴するような結末だった。

試合後、甲子園を後にするファンの表情には悔しさがにじんでいた。しかし同時に、多くの拍手が才木へ送られたことも、この日の投球がどれほど価値あるものだったかを物語っていた。

阪神は敗れたとはいえ、首位争いは依然として続く。

この一戦で浮かび上がったのは、エースの確かな存在感と、あと一本、あと一球の重みだった。

九回二死三塁。

あと一人――。

あと一球――。

その瞬間まで勝利を信じていた甲子園の記憶は、この夏を振り返るとき、多くの人の胸に残り続けるはずだ。

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