2025年7月1日、甲子園。セ・リーグ首位を走る阪神タイガースが伝統の一戦で宿敵・巨人と対峙した緊張感の中、ひときわ歓声を集めたのは、27歳の右腕・石井大智投手の復帰登板だった。6月6日にオリックス戦で頭部にライナー性の打球を受けて戦線を離脱して以降、約25日。球場アナウンスで「投手・石井大智」と告げられるや否や、観衆は割れんばかりの大声援を送った。救援陣の一角として期待されたその信頼の重さと、今季の阪神に欠かせない存在の復活を誰もが喜んだ瞬間だった。
「ピッチャー石井」のコールが場内を包む中、8回表にマウンドへ送られた。「やっぱり甲子園で投げるのは最高だなと感じました」と、しみじみ語る彼だが、その裏には命懸けの瞬間を乗り越えてきた覚悟と緻密な復帰プロセスがある。頭部死球直後に救急搬送された後、NPB側が制定したリハビリプランに忠実に従い、自宅療養、ブルペン調整、さらに6月29日のウエスタン・リーグ中日戦では3者連続三振という快投。そこでの充実ぶりこそが、一軍での再起への確信となっていた。
この日、1点リードの展開で臨んだ8回。先頭の泉口を速球とシンカーのコンビネーションでフェアゾーンへ飛ばさず左飛、順調に流れを作った。だが、吉川尚や増田陸の連打が頭上を越え一死一・三塁のピンチ。スタンドからは「ガンバレ、ガンバレ、石井!」の大合唱が響き渡る。その声援に後押しされて迎えた門脇との対決。151キロ直球が内角高めにビシッと決まり、見事左飛。ピンチ脱出の瞬間、甲子園の聖地は「石井」コールで包まれた―“魂の11球”を投じた復帰戦に、誰もが胸を震わせていた。
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本人も試合後に「あのピンチは死ぬ気で抑えられてよかった」と充実の表情で振り返る。藤川監督も“セットアッパーの復活”を喜び、離脱前と同様に8回に投入した采配は的中。「かなり前からプランを組んでいた」「どんな場面でも変わらずやってくれる、非常に強いピース」―そんな称賛の言葉が口をついて出た。
交流戦で苦しんだブルペン陣。その苦境は石井の不在中に顕在化し、7連敗を喫するなど歯がゆい時期が続いた。そんな中、チームメイトからは「本当によく帰ってきてくれた」「石井の粘れる精神力は本当に大事だ」との声が寄せられ、内外野の選手たちも彼の復帰を強く望んでいた。
リードを守り切るために配置されたリリーフ構成を支えた石井の奮闘は、ファンのみならずチーム全体の空気を変えた。梅野捕手がマウンドに笑顔で駆け寄り、「ナイスピッチ」「頼もしい存在が帰ってきた」と声を掛け、建設的な連帯感を感じさせたこと、ドラフト同期の佐藤輝明内野手の「安心した」「また一緒に頑張っていきたい」という言葉、さらに近本や森下らも「ケアが必要な投手が戻れば全然違う」と歓迎したコメント―。すべてが「石井という最強のワンピース」の復帰を歓迎する空気を象徴していた。
試合は2–1で阪神が逃げ切り勝ち。これで首位を堅守し、広島との差を4ゲームとした。石井の登板は単なる1イニングではなく、チーム浮上の契機として、今後のペナント戦への弾みともなるはずだ。
約3週間前、頭部死球という危機に見舞われた彼が、冷静に復帰への歩みを刻んできたことは、野球人としてのみならず、人間的成長を伴うものだった。救急搬送から25日。ファーム、ブルペン、そして中継ぎ一軍への復帰。すべては徹底した準備と“再起の意思”の結晶だった。観衆を味方に引き寄せた“その一球”を、阪神という集団が温かく迎えた瞬間は、まさにドラマのようだった。
「明日も勝てるように頑張っていきます」―その言葉を裏付ける“形”として、8回を無失点で切り抜けた石井の11球は確かに存在感を放ち、ベンチの信頼を取り戻す原石となった。交流戦明け以降、苦戦を強いられてきたチームにとって、石井という存在は“勝利の鍵”である。これから先、オールスター休み前までブルペンの形を再構築する過程において、彼が果たす役割はますます大きくなるに違いない。
甲子園で観戦した多くの虎キチも、そしてTVでその勇姿を追った視聴者も、そこに“彼の再起”を感じたはずだ。今、我々が目撃したのは単なる復帰登板ではなく、怪我を乗り越えた一人の投手の“再生物語”──それはチームの戦いでもあり、27歳右腕の誇りでもあった。

