あとアウト3つ、だった。
阪神が勝利目前で、まさかの逆転負けを喫した。
7日、京セラドーム大阪で行われた中日戦。
先発・才木浩人が8回をわずか2安打、8奪三振、1四球、114球で無失点。打線は初回、4番・佐藤輝明の23号2ランで2点を先行した。そこから八回までスコアは動かず、2-0。エースがゼロを並べ、最後は守護神へ――。阪神にとって、ほぼ理想通りの形で九回を迎えていた。だが、その勝利の方程式が最後の最後で崩れた。2番手ドリスが3点を失い、2-3。才木の8勝目も、チームの白星も一瞬にして消えた。
試合の主導権を握ったのは初回だった。先頭の近本光司が中前打で出塁すると、中野拓夢がきっちり投前へ送りバント。一死二塁から森下翔太の打席で中日先発・髙橋宏斗が暴投し、近本は三塁へ進んだ。森下は三ゴロに倒れたものの、二死三塁で佐藤輝。カウント1-1から変化球を捉えた打球はセンターへ伸び、そのままスタンドへ飛び込んだ。先制の23号2ラン。黒を基調とした特別ユニホームで戦う「TIGERS B-LUCK DYNAMITE SERIES 2026」の初戦で、4番が豪快な一発を放った。佐藤輝は試合後、「いいホームランだったと思います」と振り返り、打席では狙い球に対してしっかり反応できた手応えを口にしている。
その2点のリードを得た才木のピッチングは圧巻だった。初回は福永裕基を遊ゴロ、村松開人を二ゴロ、細川成也を空振り三振。二回もサノーを左飛、石川昂弥を右飛、板山祐太郎を空振り三振。三回も石伊雄太を中飛、岡林勇希を空振り三振、投手の髙橋宏を一ゴロに仕留め、最初の9人を完全に封じた。四回二死から細川に中越え二塁打を許したが、続くサノーを空振り三振。五回は板山に右前打を許し、暴投で二塁まで進めたものの、岡林を二ゴロに打ち取って得点を許さなかった。
六回には二死から村松をストレートの四球で歩かせたが、細川を中飛。七回はサノーを遊ゴロ、石川昂と板山を連続空振り三振。八回も石伊を遊ゴロ、岡林を二ゴロ、代打ボスラーを空振り三振と三者凡退に退けた。8イニングで対戦した打者は27人。許した走者は2安打と1四球の3人だけだった。前回登板では藤川球児監督から投球内容以上に「戦う姿」を求められていた右腕が、この日は最後まで集中力を切らさなかった。指揮官も「十分な仕事。素晴らしかった」と高く評価。まさにエースと呼ぶにふさわしい114球だった。
髙橋宏から3安打も六、八回の好機を生かせず
才木がこれだけの投球を見せながら、試合を決め切れなかったもう一つの事実がある。阪神打線は初回の2得点を最後まで上積みできなかった。チーム全体で僅か4安打。初回の近本の中前打と佐藤輝の本塁打を除けば、二回以降に出た安打は四回の前川右京の中前打と九回の中野の左前打だけだった。二回から九回までの8イニングでわずか2安打。才木がゼロを積み重ねる間、攻撃陣も中日の投手陣に封じ込まれた。
中日先発の髙橋宏は、立ち上がりに佐藤輝の一発を浴びた後に立て直した。二回はガルシア、梅野隆太郎から三振を奪い、元山飛優を遊ゴロ。三回は才木、近本を連続三振、中野を中飛に仕留めて三者凡退。四回は森下を中飛、佐藤輝を空振り三振とし、二死から前川に中前打を許したものの、ガルシアを空振り三振に切った。五回も元山を二ゴロ、梅野を空振り三振、才木を見逃し三振。5回80球で3安打、9奪三振、2失点。初回の2点だけで踏みとどまった。
阪神に追加点の機会がなかったわけではない。六回、代わったアブレウから近本が先頭で四球を選んだ。無死一塁。追加点への足掛かりを作ったが、中野の打席で近本が盗塁を試み、中野は空振り三振、近本も二塁でアウトとなって一気に二死走者なしとなった。続く森下も見逃し三振。七回は齋藤綱記を相手に佐藤輝が空振り三振、代打・大山悠輔が遊ゴロ、ガルシアが中飛と三者凡退だった。
八回にも好機はあった。藤嶋健人から先頭の元山が四球を選び、代走に熊谷敬宥。梅野が投前へ送り、一死二塁とした。ここで才木に代えて代打・福島圭音を送り出したことからも、ベンチは2点のリードを守りに入るだけではなく、3点目を取りにいった形だった。しかし福島は空振り三振。二死二塁から近本も中飛に倒れ、追加点は入らない。結果として才木はここで登板を終えたが、本人は試合後、八回での交代について「あの交代はベストだと思う」と話している。自らの白星よりも、チームの勝利を優先した判断を受け入れていた。
2-0のままなら、通常は十分に勝ち切れる展開だった。しかも九回を託されたのは、直前まで8試合連続無失点だったドリス。今季19セーブを挙げ、シーズン20セーブ到達が懸かる登板だった。それでも、野球は最後のアウトを取るまで終わらない。その当たり前の事実を突きつけられる九回が待っていた。
九回に悪夢 ドリスが連打で逆転を許す
京セラドームの空気が一変した。2点リードの九回、才木からマウンドを受け継いだドリス。最初の打者・福永に左前打を許す。続く村松にも右前打。一、二塁となったところで暴投し、無死二、三塁。さらに細川へストレートの四球を与え、無死満塁となった。八回まで中日打線をわずか2安打に抑えていたゲームが、ドリス登板後のわずか3人で大きく揺らいだ。
それでも、4番サノーから空振り三振を奪った。まず一つ。ここで踏みとどまれば、まだ2点のリードは残る。しかし一死満塁から石川昂の遊ゴロの間に三塁走者・福永が生還。2-1となった。二死一、三塁。まだ阪神が1点をリードしている。石川昂に代わって一塁走者には俊足の樋口正修が送られた。打席には板山に代わる代打・阿部寿樹。樋口が二盗を決めて二、三塁となり、一打逆転の場面へ状況が変わった。
カウント1-1からの3球目だった。ドリスの直球を阿部が振り抜く。打球は左翼フェンスを直撃した。三塁走者に続き、二塁の樋口も生還。2-3。八回終了時点で2-0だったスコアがひっくり返った。ドリスは続く石伊の打席でも暴投で阿部を三塁へ進めたが、最後は石伊を右飛に打ち取った。だが、1イニング30球、打者7人、3安打、1四球、3失点。才木が8イニングかけて一度も許さなかった得点を、最後の1イニングで3つ失った。
阪神もその裏、最後の反撃を見せた。中日の守護神・松山晋也に対し、先頭の中野が左前打。森下は右翼へのファウルフライに倒れたが、佐藤輝の打席で松山が暴投し、中野は二塁へ進んだ。佐藤輝は四球を選び、一死一、二塁。一打同点、長打なら逆転サヨナラの場面を作った。しかし大山が空振り三振。最後は八回から左翼守備に入っていた髙寺望夢が高めの球を打ち上げ、中飛に倒れた。ゲームセット。九回裏に1安打1四球で松山を追い詰めながら、ホームは遠かった。
終わってみれば中日は5安打で3得点、そのうち3安打を九回に集中させた。阪神は4安打で2得点。得点は佐藤輝の一振りによる初回の2点だけだった。勝利投手は八回を無失点に抑えた藤嶋健人、松山が20セーブ目。ドリスは3敗目を喫した。エキサイティングプレーヤーには、九回に代打でただ一度の打席に立ち、逆転の2点二塁打を放った阿部が選ばれた。
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才木はドリスを責めず 藤川監督も信頼変えず
最も悔しいはずの男が、最も冷静だった。8回2安打無失点。あと3アウトで8勝目というところまで来ながら、その白星が消えた才木。それでも試合後、謝るドリスに向けた言葉はあえて軽いトーンのものであった。「シゴトね!」。冗談交じりに声をかけ、守護神をいたわったという。交代についても「ベストだと思う」と受け止め、自分に勝ち星がつくかどうかは気にしていないとした上で、チームが負けたことへの悔しさを口にした。そしてドリスには「また明日、あさってがある」と切り替えを求めた。エースが敗戦直後に見せたのは、責任を誰か一人に背負わせない姿勢だった。
藤川監督も同じだった。ドリスについて問われても「今までしっかりやってきてましたから」と責めなかった。ドリスにとって失点は7月11日のヤクルト戦以来9試合ぶり。この日まで8試合連続無失点を続け、終盤を支えてきた38歳右腕だ。だからこそ、一度の救援失敗だけを切り取って評価を変えることはしなかった。一方、才木には「あの回までで十分な仕事」と賛辞を送り、集中力の高さ、八回まで投げ切った内容を評価した。
ただし、チームとして見れば無視できない数字も残る。この敗戦で阪神の逆転負けは今季25度目となった。セ・リーグでは中日の27度に次ぐ多さ。昨季の逆転負けはシーズンを通して26度だったが、2026年はまだ40試合以上を残す段階で、その数字まであと1に迫った。イニング別の失点も、1~3回が108、4~6回が90に対し、7回以降が117。終盤に失点が多いというデータは、この日の九回3失点と重なる。
救援陣についてはシーズン途中から課題が指摘されてきた。中田良弘氏は6月の段階で、勝負の後半戦へ向けて「勝ちパターン」を固める必要性を挙げ、岩崎とドリスへの負担を軽くするためにも他の救援投手の安定が必要だと論じていた。この日は才木が八回まで投げ切ったため中継ぎ陣をつなぐ展開ではなく、九回を守護神一人に託した。そのドリスが崩れたことで、盤石に見えた試合を落とす結果になった。
それでも首位の座は動かなかった。同日に2位巨人もヤクルトに0-1で敗れたため、阪神は54勝43敗1分で単独首位を維持し、巨人との1ゲーム差も変わらなかった。ただ、今週は村上頌樹、高橋遥人、そして才木と、先発の柱が登板した試合で3連敗。中日戦での2年ぶりの年間カード勝ち越し決定も翌日以降へ持ち越された。だからこそ、藤川監督が試合後に向けた視線は終わったゲーム内容ではなく、その先だった。「しっかりとチームを一つにして明日に向かう」。長いシーズンでは、守護神が打たれる日もある。八回無失点のエースに白星がつかない日もある。8月7日の一戦で記録に残ったのは痛恨の逆転負け。その悔しさを晴らすべく、ナインは次の試合に向かう。

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