阪神が、連敗という嫌な流れを振り払った。6月13日、京セラドーム大阪で行われたオリックス戦。4連敗中の虎は、序盤から得点を重ね、終盤にも突き放して6-3で勝利した。数字を見れば9安打6得点。先制、中押し、追い上げを受けてからの追加点、そして救援陣の踏ん張り。連敗脱出に必要な要素を、一つずつ積み上げた白星だった。
初回、いきなりタイガース打線が動いた。先頭の福島圭音が左前打で出塁したものの、けん制死で好機はしぼみかけた。続く中野拓夢も二ゴロに倒れ、二死走者なし。だが、ここから中軸が試合を動かす。3番・森下翔太が左翼線へ二塁打を放つと、4番・佐藤輝明が中堅フェンス直撃の適時二塁打。二死から長打2本を並べ、阪神が1点を先制した。佐藤はこの一打でチームに主導権を呼び込み、停滞していた攻撃の空気を一変させた。
オリックスもその裏、二死から西川龍馬が中前打、太田椋が右前打で一、二塁としたが、宗佑磨は空振り三振。阪神先発の高橋遥人が踏みとどまった。二回は阪神が嶋村麟士朗の中飛、木浪聖也の見逃し三振、熊谷敬宥の空振り三振で三者凡退。オリックスも池田陵真が三ゴロ、杉本裕太郎が空振り三振、若月健矢が遊ゴロに倒れた。三回も阪神は坂本誠志郎の空振り三振、福島の投ゴロ、中野の二ゴロで無得点。オリックスは宜保翔が空振り三振、中川圭太が三ゴロの後、山中稜真が二塁内野安打で出塁し、盗塁も決めたが、西川は一ゴロ。序盤は高橋が走者を背負いながらも、要所を締めた。
流れを広げたのは四回だ。先頭の森下が四球を選び、佐藤が右前打で無死一、三塁。ここで大山悠輔が中犠飛を放ち、阪神が2点目を奪った。派手な一発ではない。だが、無死一、三塁で最低限をきっちり果たす、連敗中のチームに必要な得点だった。なおも嶋村が中前打で一、二塁としたが、木浪は一ゴロ、熊谷は遊ゴロに倒れて追加点はならず。それでも、序盤から中軸が機能し、走者を進め、犠飛で返す攻撃は、試合の主導権を阪神側に残した。
高橋遥人、無傷の8連勝 苦しみながら勝つ投手の証明
この日の主役の一人は、やはり高橋遥人だった。6回を投げ、93球、打者26人、7安打、5奪三振、1四球、3失点。そのうち自責点は2。圧倒的にねじ伏せるだけの内容ではなかった。初回から安打を許し、三回には山中の内野安打と盗塁で得点圏に走者を背負った。五回には味方の失策で先頭の杉本を出した。六回には集中打を浴び、4点リードを一気に1点差まで縮められた。それでも、勝ち投手の権利を持ってマウンドを降り、今季成績を8勝0敗とした。
高橋の開幕から負けなしの8勝は、球団史の中でも特筆される記録として扱われた。すべて先発で積み上げた白星という点でも価値は大きい。高橋はこの試合でリーグ単独トップの8勝目を手にしたが、本人の言葉は浮ついていなかった。六回の失点について「力不足」と受け止め、走者を背負った場面で不利なカウントを招いたことを反省した。白星がついても、内容に満足しない。むしろ、勝った試合で課題を口にできるところに、この左腕の強さがある。
六回裏は、試合最大の山場だった。阪神が四回までに2点、六回表に熊谷の一打でさらに2点を加え、4-0とした直後である。先頭の中川に中前打、山中に右前打を許し、無死一、二塁。続く西川には左翼への適時二塁打を浴び、1点を失った。なお無死二、三塁。ここで太田を空振り三振に取ったが、宗に右前適時打を許して2点目。さらに一死一、三塁から池田の打席で捕手・坂本の悪送球が出て、三走が生還。4-3。京セラドームの空気は一気にオリックスへ傾いた。
それでも高橋は崩れ切らなかった。池田には四球を与え、一死一、二塁となおピンチを残したが、杉本を左飛、若月を三ゴロに打ち取って、同点は許さなかった。六回を投げ終えた時点で3失点。盤石の内容ではない。だが、先発投手に求められるのは、すべての回を完璧に抑えることだけではない。悪い流れの中で、どこで止めるか。追いつかせないか。勝利投手の権利を守り、救援陣にバトンを渡せるか。この日の高橋は、苦しんだ末にその仕事を果たした。
初回には山中の打球が右手首付近を襲う場面もあり、試合後にはテーピングも見られた。それでも本人は大事に至っていないことを示しつつ、無傷の8勝という表現に対しては「皮膚を強くしたい」と、独特のジョークで返した。8勝0敗という結果は無傷でも、マウンド上の中身は無傷ではない。打球を受け、連打を浴び、失点し、反省を残して、それでも勝つ。高橋遥人の8連勝は、きれいなだけの記録ではなく、修羅場を越えてきた記録だった。
熊谷が流れを変え、髙寺と中野が決めた 勝負どころの一打
攻撃面でこの試合を決定づけたのは、六回と九回だった。六回表、先頭の森下が中越えの二塁打で出塁した。佐藤は空振り三振に倒れたが、大山が四球を選び一死一、二塁。嶋村の打球を遊撃・宜保がファンブルし、一死満塁となった。木浪は遊飛に倒れ、二死満塁。ここで打席に入ったのが熊谷だった。
熊谷は左翼線へ2点適時二塁打を放った。三走・森下、二走・大山が生還し、阪神は4-0。直前まで追加点の好機を逃し続ける可能性もあった場面で、二死からの一打は大きかった。しかも熊谷はこの日、二回の第1打席では空振り三振、四回の第2打席では二死一、三塁で遊ゴロに倒れていた。三度目の好機で、試合を動かす結果を出した。守備でも遊撃に入り、終盤までグラウンドに立ち続けた熊谷は、伏兵ではなく勝利の中核だった。
ただ、阪神はその裏に3点を返され、試合は一気にわからなくなった。4-3のまま七回、八回を終え、九回表を迎える。ここで再び、阪神の下位から上位へつながる打線が力を出した。先頭の木浪が岩嵜翔から8球目を見極めて四球。代走に植田海が送られた。続く熊谷は送りバントを試みたが、捕邪飛となり一死一塁。それでも坂本が投前へ犠打を決め、二死二塁。ここで途中出場の髙寺望夢が打席に入った。
髙寺は中堅へ適時三塁打を放った。二走・植田が生還し、阪神は5-3。七回から中堅守備に入っていた若虎が、九回の最重要場面で大仕事をやってのけた。髙寺は試合後、久しぶりにいい場面で打てたという趣旨の言葉を残している。スタメンではない。だが、途中出場の一振りで、試合の重さを変えた。こういう一打が、連敗を止める試合には欠かせない。
さらに中野が続いた。二死三塁から3ボール2ストライクとなり、中前へ適時打。髙寺が生還し、6-3。中野はこの試合、初回は二ゴロ、三回も二ゴロ、五回は空振り三振、七回は遊ゴロ。第5打席まで快音はなかった。それでも最後の得点機で、流れに乗る形の適時打を放った。序盤に佐藤が先制打、四回に大山が犠飛、六回に熊谷、九回に髙寺と中野。誰か一人の爆発ではなく、局面ごとに必要な打者が必要な仕事をした。森下も4打数2安打3得点。二塁打2本でチャンスメークし、本人も連敗を止められたことを最も大きな収穫として受け止めた。
この日の阪神打線は、全体で33打数9安打6打点。8三振、3四球、1死球。派手な本塁打はなかったが、二塁打、三塁打、犠飛、犠打、四球を絡めて得点した。走者を置いて長打が出たこと、終盤に追加点を取れたこと、下位打線から上位へつないだこと。これらは、単なる6点以上の意味を持つ。連敗中のチームに必要だったのは、勢い任せの一発ではなく、試合の流れを読みながら一本ずつ重ねる攻撃だった。
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木下の火消し、岩崎の安定、ドリスの三者三振
この試合の勝敗を分けたもう一つのポイントは、七回裏だった。高橋が六回で降板し、七回は畠世周がマウンドへ。阪神は中堅に髙寺を入れて守備を整えた。しかし先頭の宜保に二塁内野安打を許し、中川の投犠打で一死二塁。山中を中飛に打ち取ったが、西川に四球を与え、二死一、二塁となった。打席には太田。ここで畠にアクシデントが起きる。右手中指付近の違和感により、ベンチは急きょ木下里都を投入した。
木下の役割は明確だった。二死一、二塁、1点リード、相手は中軸。ここで打たれれば、高橋の8勝目も、チームの連敗ストップも消えかねない。藤川監督は、畠が自ら異変を伝えた判断をチーム優先の勇気として受け止めた。そのうえで送り出された木下は、太田を空振り三振に仕留めた。わずか1アウト。しかし、この1アウトは試合全体の流れを決めるだけの価値を持っていた。評論家もこの場面を、流れを食い止めた極めて大きな火消しとして評価している。六回に1点差まで迫られ、七回にも得点圏に走者を背負った場面。そこで木下が踏ん張ったからこそ、阪神は八回、九回へリードを持ち越せた。
八回は岩崎優が登板した。先頭の宗を二飛、池田を空振り三振、杉本を三ゴロ。わずか9球で三者凡退に抑えた。ベテラン左腕の安定感が、試合を落ち着かせた。攻撃陣はその直後の九回表、髙寺と中野の連続適時打で2点を追加。4-3の薄氷から、6-3へ。リードは3点に広がった。
そして九回裏は、ドリスが締めた。若月の代打・平沼翔太を空振り三振。宜保の代打・横山聖哉も空振り三振。最後は中川を空振り三振に仕留め、三者連続三振で試合終了。1回15球、3奪三振。抑えとして申し分ない内容で、今季10セーブ目を挙げた。ドリスはチームに日本一を狙える力があるという趣旨の言葉を残した。
守備面ではミスも出た。五回裏には三塁・木浪のファンブルで杉本を出塁させた。ただ、若月を二飛、宜保を三塁併殺打に仕留めて無失点。六回裏には坂本の悪送球で1点差に迫られた。坂本自身もミスで迷惑をかけたと受け止めながら、それでも最後まで試合を導いた。藤川監督は、捕手の仕事は最後までゲームを持っていくことにあるという見方を示し、坂本の働きを評価した。ミスがあったから負けた、ではなく、ミスがあっても勝ち切った。そこにこの試合の意味がある。
阪神は高橋、畠、木下、岩崎、ドリスの継投でオリックス打線を8安打3点に抑えた。オリックスは西川が3打数2安打1打点1四球、山中が4打数2安打、宗も適時打を放つなど中盤に反撃したが、あと一歩届かなかった。阪神は失策2つを記録しながらも、要所で三振を奪い、併殺を取り、救援陣が無失点でつないだ。
観衆3万6103人の前で、3時間25分の激闘を制した阪神タイガース。スコアは6-3。その中身は、高橋遥人の無傷8連勝、木下の緊急火消し、終盤の若虎の一打、守護神の三者三振が重なった、総力戦の勝利だった。
